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きみがすき

第28章 *ご*

*大野*




サァっ。
潮の香りを連れて吹き抜ける少し湿った風。

もうすっかり鼻に馴染んだ、この香りに心が落ち着く。


もうすぐ、暑い夏がくる。



「ふぁぁ~…」

大きな欠伸をしたのは俺。
普段からあまり人目は気にしない方だけど、この環境はさらに俺を開放的にさせてくれる。

しっかし今日は

「釣れねぇなぁ…」

ま、こんな日もある。

竿が海に落ちないように固定だけして
防波堤から投げ出した足をそのままにゴロン。とコンクリートの上に横になった。

ザァブンっ。
不定期に聞こえる波がぶつかる音。

暑さが増してきたけど、丁度良い気候。
眠くなっちゃうのは仕方ない。

俺は被っていたキャップを顔に被せて目を閉じた。



**

それは、もう何日も前になる。


翔くんと別れた俺は

カラ…ン…。
と、木でできた厚めの扉をゆっくりと開けた。

「お邪魔しまーす…」

静かな店内。

…連絡してから来れば良かったかな…


見回せば

…あ

フロアから少し見える厨房で、真剣な眼差しで手元に視線を落としている相葉ちゃん。



会いたくて来ちゃったけど…

そうだよ…相葉ちゃん仕事じゃん…

迷惑かも…


…でも
普段の眼差しとは違う、その真剣な表情の相葉ちゃんは、なんだか更にかっこ良くて、目が離せない。


と、

真剣なその顔が緩み…

相「…よしっ。おーわり。」
顔を上げた相葉ちゃんと、ぱちっ。と目が合った。

相「…………っえ?」


「…あ……お邪魔してます…。」


相「あれ?大ちゃんが見える。」
ぶんぶん。と頭を振ってから首を傾げた。

「こんばんは…」

今更こんばんはって…

相「…こんばんは…」
相葉ちゃんは驚いている。というよりは困惑気味で…

…やっぱり迷惑だったかな…


相「ねぇ。これってサプライズ?」


「…え?」


相「俺、すごく嬉しい。」

こぼれそうな満面の笑みをくれた。




俺、なんか泣きそうだ…

ごめん。もう限界。


コツ。と一歩踏み出した足。

相「待ってて。そっちに行くから♪」
静かな店内に相葉ちゃんの声と水の音が響く。

待ってて。と言われても俺の足は止まらなくて、厨房から出てくるのを待ってましたと

相「っおわっ!…びっくりしたぁ(笑)」


細いけど男らしい
その体に抱きついた。

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