テキストサイズ

きみがすき

第29章 *ろく*

*櫻井*




「で。俺が招かれたのね。」


大「…うん。」
俯きかげんに、ぽつりと答えた。

俺と智くんの目の前のテーブルの上には、鯛の刺身。
その身は透き通り…マジで旨そう。

智くんがさばいてくれた物だ。


「つーかバイバイキンってウケるな(笑)
面白い奴じゃん。」
くく。と笑えば…

大「…そこじゃないよ。」
と、対面に座る智くんが口をへの字に曲げる。
智くんの家に来てから、眉毛はずっと下がったままだ。

…あらら。
何ダメージくらってんの。

「知らない奴なんでしょ?そんな奴に言われたことなんて気にすることないじゃん。
んじゃ、いただきまーす。」

俺は、手を合わせてから刺身に箸を伸ばした。

大「どうぞ。
…だって、まさに俺の事だったからさ…」

「うまっ!旨いよ智くん!」


大「…………。」


「………そう睨むなって。鯛が不味くなるー。
ほらほら。智くんも食べなよ。」


大「……いただきます。」
そう言って、しぶしぶ智くんも箸を伸ばした。

大「…………うん……旨い。」


「だろぉ?」


大「…ふっ…なんで翔くんが得意気なんだよ。」

あ、やっと笑った。

「この鯛には何も罪はない。だから美味しく食べてあげないとな。」


大「……俺、傷つけてたのかな……恨まれて当然だよね…」

あ、言葉のチョイス間違った。



はぁ……

「智くん。
俺の知る限り。智くんは恨まれる様な人じゃない。俺が保証する。」
俺は、きっぱりと言い切る。

その言葉に、智くんの下がっていた視線が俺に向けられる。

大「………でも…」


「でもなに?
今更今まで付き合ってきた女の子のところに行って謝るの?
すきでもないのに付き合ってごめんなさい。って?」


大「…それは……」


「揉めて別れた事なんてないじゃん。
寧ろ、円滑過ぎて引くわ。
ま、最近の?6年付き合ってた?なんとかちゃん?は、知らねーけど。」(←根にもってる)


そう。
大学時代の智くん。最初こそ話しかけにくい雰囲気だったけど、俺やタケとかと友達になって、んで彼女ができたりもして、周りからの印象が変わった。

そっからはねぇ。
まぁ…モテましたよ。男女問わずね。

でも、智くんの穏やかな雰囲気は変わらなくて、争いなんて起こる影も様子もなかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ