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きみがすき

第35章 *じゅうに*

*松本*




「ご馳走さま。潤。また来るわね。」

その声は常連のお客さん。
open当初から通ってくれている方で、詳しくは知らないし聞く気もないけど、たぶんそこそこの金持ちの、俺よりもいくつか歳上。


店に来てくれるのは とても有難い。


けれど、俺はこの人が苦手だ。
理由は、この人が俺にキスをしてきたから。

初めから警戒していれば良かったか、でもあん時は そんなことされるなんて露ほどにも思ってなくて、ノーガード。

何より
それをよりにもよって かず(あと大野さん)に目撃されるっていう最悪のパターン。



まぁでも、それがきっかけにもなったのか…その日、かずと付き合えることになったんだけどね。


後日「恋人いるので」と伝えた俺に、その人は「そう」と微笑んだ。
で、今も変わらず通ってくれていて
結局…なんでキスされたのかわかんないし
店を気に入ってくれているならそりゃ嬉しいけど………

謎。




いつものように扉の外まで見送った俺は、いつも通りの「ありがとうございました。」とその人へ笑顔を返した。



.

ふぅ…
さて、週半ばのこれからの時間帯。
来店するのは、barとして軽く飲みにくる方が主だ。

今のうちに片付けて…それから仕込みも進めておこう。
あとは……と、頭の中でこれからの計画を立てつつ、雨上がりの夜空を見上げ、伸びをした。


「ぅ〜んっ…さっ…てと」
もうひと頑張り。と、自分に勝を入れ、俺は店に戻るべく扉へと振り返っ…


ガシッ!!

「っわぁぁ!!」

突然なんの前触れもなく腕を何かに固定された俺は、思わず大声を出す。

大「わっ!松潤!しーー!!」


「何?!!誰っ!?…へ?!え…」

ばっ!と振り返れば…そこにいたのは大野さん。

大「松潤!ねぇ今、大丈夫?!」


「っ何処から現れた?!つーか気配は?!」

大「? 何言ってるの?
ねぇ今お店、お客さん大丈夫?」


「は?店ってなんで?!」



……

なに?…いやに真剣な顔で

「………店は…今はお客はいないけど…」

ん?……あれ…?

大「そっか…あのね…」
「なぁなんでこんな手、冷た……は?何これ、すげー濡れてんじゃん。」

俺の腕を掴む手は、氷のように冷たくて…
ぺた。と触った髪…いや髪だけじゃなく着ているYシャツも冷たく湿っていた。

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