きみがすき
第35章 *じゅうに*
「ここがトイレで、こっちが風呂。沸かしてある。あ、タオルとか適当に使って。で、着替えはリビング。」
松「…」
「冷蔵庫は…水か酒しかないけど、勝手にどうぞ。」
リビングまでの短い距離。俺は早口に伝える。
松「…あの 櫻井さん?」
「ん?」
振り向けば、ついさっきの慌てていた松本くんはすっかりいない
松「なんの説明?ですか?」
「俺、今日は友達んちに泊まるから好きに使って。スペアキー置いてくから出てく時ポスト入れてってね。と、これ俺の連絡先。念のため。」
一端、廊下で止まった俺は
はい。とポケットに入れていた鍵とメモを松本くんに差し出す。
松「……」
その顔は、更に は?となり、
俺の手から受け取る様子はない。
「別に、直ぐに帰ってもいいし朝まで居てもいい。」
でも…きっと今のニノには時間が必要だ。それに…
「ニノ、雨で濡れて冷えてるだろうから、せめて風呂だけでも入ってけな。」
そう伝えて、俺は松本くんの手に鍵とメモを握らせた。
松「………なんで?」
手から視線を上げ、俺を見た瞳はやっぱり不思議そうで
「なんでって?」
松「なんでここまで…」
次に続くのは『するの?』か?
…
……
そーいやなんでだ?
「んー……」
松「…」
「……あー…友達。だからかな。」
辿り着いた答えに ふふ。と笑えば
松「はあ…」
と、ちょっとだけ納得したようなしてないような?そんな顔。
「ほら細かいことは気にすんな。それにさっき偉そうに悪かったな。
ニノは松本くんをずっと待ってる。だから早く行ってあげて。」
俺はリビングへのドアを開けて、松本くんの背中をそっと押した。
松本くんは…
少しだけ、ぺこ。と頭を俺にさげて、ゆっくりとニノの元へ歩いて行く。
ドアを閉める時
松「かず。」
それは…とても穏やかで優しい声だった。
ニ「っ」
その瞬間、パッと頭を上げたニノ。
その時ニノは…どんな顔をしていたのかな。
俺は静かにドアを閉め、廊下に用意しておいた着替え諸々が入ったスーツケースを持って、自分の家を後にした。
…
……
雨上がり独特の匂いがする外。
「愛ってすげー…」
思わずそう夜空へ呟いて
俺は
大切にすると決めた人の元へ行くために
よっ。と荷物と共に車に乗り込んだ。