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きみがすき

第35章 *じゅうに*

*櫻井*




さて
どうすっかな…


今は俺の家
ニノは、ソファーに座らせた…というか置いた。という表現の方が正しいんじゃないかって感じだけど


「ニノ。着いたよ。」
「ニノ。車降りるよ。」
「ニノ。……」などなど

声はかけてはみたものの。返事はない。
ただ…誘導する為に毛布越しに体に触ると、びくっ。となる姿がなんだか痛々しくて、部屋に連れてきたはいいものの、着替えなんてできそうにもなく、勿論風呂なんてもっての他、ソファーが限界だと思った。


だから…
ニノの体は濡れたまま。俯いたその顔は青白い。


室内に入った瞬間にわかる夏特有の もわっ。とした暑さ。
俺は汗だくだけど、エアコンのスイッチは入れられなかった。

ソファーから少し離れたスツールに座り
ぴくり。ともしない毛布の塊を見る。



……

ニノの人に対する警戒心
…いじめ?それか虐待か…?
もしそうなら、尚更知識が無く信頼も薄い俺が下手に手を出さない方がいいよな…

智くん、松本くんに会えたかな
ニノも…店に連れていくべきだったかな…



俺こそ 何もできてねーわ。と自分に呆れた。


.



微かに聞こえた トントントンと通路を走る音

来たか。

俺は立ち上がりリビングから玄関へと急いだ。


カチャ…

松「…あ」

できるだけ音は立てないようにと開けたドア。
そこには、インターホンに指を翳す松本くん。

松「かずは…!」

しっ。と
俺は目と指で合図をしながら、玄関から外へ出て、後ろ手にドアを閉めた。


松「…え?」
心配気に、そして不信気に俺を見る瞳
顔に流れる汗

「車は?」


松「…大野さんが駐車場無いって、見つけたパーキング結構遠くて……ってそれよりかずは!」


「中に居るよ。時々、松本くんのこと呼んでる。」


松「っじゃぁ早く中に!!」
「松本くん。
俺は何も知らないし、何もわからない。けどさ…」


松「けどなんですか?!」


「松本くんがそんなんじゃ会わせらんねーな。」


松「っは?!なんっ!………ぁ……」

一瞬、食い付いてくるか?と思ったが
松本くんは直ぐに俺の言葉の意味を理解したようで


ふぅ…
とゆっくりと深呼吸をし「俺は大丈夫です。」と目力強く答えた。



…ふっ、心配無用だったかな。


俺は少し笑って どうぞ。とドアを開けた。

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