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きみがすき

第36章 *じゅうさん*



「ううん。
強いってほど強くなかったし。」

すっごい久しぶりにチョップなんてされたから、思わず痛いって言っちゃったけど。

相「でも…ごめん。」


そんな相葉ちゃんの顔は、一変、申し訳なさそうな顔で、
そしてその俺を見る目は、あの時…お客さんと話していた時に見せた、優しいもので…


なんだか
不思議と、さっきまでの緊張や…不安が…スーッ。と消えてった。


「…ふ。」


相「え?」


「ふふ…相葉ちゃんの表情ってコロコロ変わって面白くて……ふふふ。」


相「…」

あ、今度は…
口がポカン。と開いた顔。


相「………そうだ…大ちゃんて天然だった…。」
次は、口の中でゴニョゴニョ何かを言って…


「?」
何?と見返せば

相「…………はぁ……
んーん。なんでもない。
…あぁ………なんか俺、気が抜けちゃった。」


「? ……あ、仕事。お疲れ様。」


相「……………
ねぇ大ちゃん、ホントにもう寒くない?」


「え?…うん。もう全然。」


相「じゃぁ体調は?悪くない?」


「うん。平気。」


相「熱はー…今のところなさそうだね。」


あ…
おでこに当てたままだった手が、ゆっくりと離れていく。

…相葉ちゃんの手は、水を良く触るからか、少しカサついてる。
手のひらは大きくて、指は細くて長くて綺麗。だけどゴツゴツと骨ばってて男の人の手だなっていう手。




……

その手を…温もりを離すことを選んだのは俺。


相「…大ちゃん?」

あの日、俺は怖くなったんだ。
相葉ちゃんからこの手を離されることが



今更。かもしれない。

もう…遅いかもしれない。


でも…

もう1度…もう1度だけ…


俺は
離れていくその手を掴んだ。



「あのね……俺…あの時……あ、あの時っていうのは…………」


相「………」

何から伝えれば………



相「ねぇ……今日は。この後、誰かと約束あるんですか?」

え?

「約束?…ない…あ、ありません。」


相「そうですか。
じゃぁ片付け。やっぱり最後まで手伝ってくれませんか?
2人でやれば早く帰れる。と思うので。」


……ぁ
俺がさっき言ったやつ




相「でも
大ちゃんが早く帰りたくても、帰してやんないけどね。」


やっぱり怒ったように
でも俺の手は、強く優しく握り返された。




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