きみがすき
第5章 *ヨン*
いつもの俺を呼ぶ智くんの声
息がとまった。
たらりと、汗が首を伝う。
『聞かれた?!』
離れようとした中途半端な状態の俺、
反らした顔を戻すことが出来ない。
そんな俺の耳に
大「翔くん。結婚するの?」
智くんの澄んだ声が
耳に響いた。
バッと反射的に智くんを見る。
そこには、優しい顔をした智くん、
暫く何も話せず、見つめ合う。
何も話さない俺に、
大「あれ?違った?」
と首をかしげる。
あぁ…。
智くんにはお見通しだね。
「…うん。そうだよ。
来年、籍を入れる。」
大「やっぱり。
おめでとう。
幸せになってね。翔くん。」
智くんは、そう言って
とても、ひどく、綺麗に笑った。
「あぁ、ありがとう。」
俺はちゃんと笑えただろうか。
「帰るね。ちゃんとスーツ脱がないと、
シワになるよ。」
ベッドから立ち上がり、ドアへと向かう。
大『ありがとう。
ごめんね。』
智くんが何かを言った気がしたけど、
振り向いた時には、
規則的に上下している丸まった背中が
見えただけだった。
カーテンの隙間から、完全ではない月と
目が合う。
パタンと閉まるドアの音が、
俺の恋の終わりを告げた。