兄達に抱かれる夜
第10章 可愛がって貰えたみたいだね
俺は受け取った風船を渡そうとして、翔太が風船のヒモを掴んだ。
「こうすれば、どこにもいかねぇんだ」
恵麻の手を取り、その白くて細い手首にヒモをくぐらせ、リボン結びをする。
「わあっ」
嬉しそうに笑い、手を振って、風船がちゃんと離れずについてくることに喜んでいる。
「すごい、すごいっ」
走り回って喜んで、風船と戯れる恵麻。
その風船を軽くつついて、一緒に遊ぶ翔太。
それに気付いて、和もいつの間にか、一緒に遊んでいる。
子供はこれだから……、やれやれ、少し呆れながら、木の幹に寄りかかって、見守った。
きゃっきゃっと笑いながら、風船と戯れて、どこが面白いのか、無駄に走り回って、転んだら、せっかくの着物が大変な事になるのに。
無邪気に笑う、可愛い女の子。
あんな子供が、俺達のお嫁さんになる。
実感が湧かない、当たり前だ、まだ、幼い子供の頃の事だし。
ただ、笑いながら、無邪気に遊ぶ恵麻の姿が、眩しくて、目が離せなかったんだ。
大人ぶって、一歩引いた保護者を気取って、余裕ぶった兄のふりを続ける。
恵麻と遊ぶ翔太や和を羨ましく思いながら、素直に遊ぶ事も出来ない俺。
ただ、眩しくて、見守っていただけだ。
あの笑顔が守れるなら、それで良かった。
それなのに。
仕来たりは始まってしまった。
ずっと、隠していた、余裕のある兄の姿を保つ事なんか、出来なかった。
俺はどこかで思っていたんだ。
ただ、恵麻が欲しくて。
泣かせてでも、自分のモノにしたかった。
眩しい、その存在を。
泣かせて、汚してやりたい、他でもない、この俺が真っ先に奪いたい。
だから、力ずくでも。
逃げたがっていた、恵麻をこの腕で引き止めた。
仕来たりが始まれば、俺だけの花嫁になるとは、限らないのに。
分かっていたのに、ただ、欲しくて、獣のように、自分のモノにした。
望んだ事なのに。
どうしてこんなにも、不安になるのか、頭の中では分かっていた。
恵麻の心の中には俺はいない。
昔から知っていた。