兄達に抱かれる夜
第8章 君は誰かな?
こんな事、恵麻だけなんだから。
何も知らない癖に、他人にとやかく、言われたくないね。
肩を掴む環の手を、俺はぱしりと振り払った。
俺だってお祖父様に剣道を教わって来たんだ。
揉めごとは嫌だけど、ヤられっぱなしも、気に入らない。
「離してくれるかな、いきなりこんな挨拶するなんて、さすがは土御門家って感じなのかな?」
「…………恵麻をあんたらなんかに任せられない、必ず、僕が………」
環が小声で独り言のように呟く、良く聞き取れない。
「何を言ってんだよ?」
「取り返しに行くから、それまで、ちゃんと恵麻を大事にしててよ、そうじゃなきゃ許さない」
今度ははっきり聞こえた。
風が吹いて、翻る制服のスカート、風に靡く長い髪を振り払って、鋭く俺を睨み据える。
「取り返しにって、どういう事だよ?」
俺に背中を向けて、走り出そうとする姿に、引き止めるように、声をかけるのに。
背中越しにチラリと鋭く見つめられて、ニヤリと笑う環の瞳に、ぞくりとした。
「恵麻を僕が迎えに行くから、それまで、待ってて」
それはまるで、決まった事のようで、自分のモノを取りに行くような言いかただった。
「何だって……?」
素早く走り出す、しなやかな体、近くの公立高校の制服のスカートが、揺れているのが目に入った。
俺は慌ててケータイをポケットから取り出した。
「…………ああ、俺だよ、早急に調べて貰いたい、土御門 環について、詳しく土御門家の関係まで頼むよ」
用件を事務的に伝えて、家へと戻ろうとして、思い直して結局、自分の愛車に乗った。
フェラーリのエンジンの音をしばらく聞いて、やっと静かな気分になり、車をスタートした。