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密猟界

第9章 死海のほとり

 ──辺りが、急に暗くなり、鼻の奥を刺激する臭い。(な…んだ?)首を少し動かしただけで、両肩に激痛が走る。
 …少し前から、頭上が騒がしかった。翼の羽ばたき、獣の哭き声、風の吹きすさび─肩を挟みつける鋼鉄のようなものが、上下に揺れ、頭のなかが真空になった。
 ─顔に大粒の雨が当りはじめ、目を開けていられない。キナ臭い匂いがさらに強くなり、バリッ…と金属が裂けるような響き。
 立て続けにそれが聞こえ、…耳をつんざく轟音…猛り狂った哭き声─地平線がせりあがってきた…。
 耳の奥がおかしくなった。途端に急降下…。身を切る風に吹き飛ばされそうになる。爆発音のような、轟き…。
 大樹の折れたような音に続き、肉の焦げる匂いが空気に混じり、突然、身体が空中を舞いながら、落ちる…目の前の光景がぐるぐる回り、目が眩む。
 ─落ちたのは、砂地だった。仰向けに倒れ、身動きが出来ない。両肩が酷く痛み…傷口から骨が覗いていた。
 …しばらく、気を失っていたらしい。雑音に取り巻かれ、目を開くと、黒い翼の鳥の群れが、空から次々と自分のそばに、降りてくる。赤ん坊の泣くような声を出している。波の打ち寄せる音も、聴こえた。

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