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ノックの音がして
私はホテルの扉を開きました。


扉の外に立っている彼女を見た時
本当に電流のようなものが身体を走ったのを今でも覚えています。
彼女はとても素敵な人でした。

彼女は当時二十歳でした。
つき合っていた男性と別れたところだったと思います。
その彼を忘れたいから私に会おうと思ったと言っていました。

この時、私は彼女に今日関係を持つのは止めておこうと言いました。
何故だかわかりませんが、恐らく彼女を傷つけたくなかったのだと思います。

それまでも彼氏や旦那さんと喧嘩しているから等の理由で関係を持ったことはありました。
彼女たちは肉体的関係で前に進めるのだろうと感じました。
実際、みなさん私が驚くほど積極的にSEXを楽しみました。
何度も何度も求めてきました。

ただ、Mさんはそうでは無いと感じました。
心がほんとうに壊れそうになっていることがそばにいるだけで伝わってきました。
彼女をこれ以上傷つけるようなことはあってはいけないと感じました。

彼女にそれを伝えると
『壊れそうなのはジンさんでしょ？』と言われました。
ジン、ケイ・・・私は複数の名前を名乗っていました。
彼女はその内の一つを本名のように丁寧に扱ってくれました。

『私で救えるならジンさんを救いたい。』

救ってほしいほど傷つき合ったもの同士が
お互いを本気で救いたいと思っている。

たぶん、相手を救うことで自分自身の境遇も肯定できる
そんな気持ちになっていたのだと思います。
相手の役に立つことで
自分自身の存在価値を感じることに繋がる。


私が複数の女性と関係を持った理由と同じことを
彼女はこの時私に対して感じていたのだと思います。


私は不覚にも彼女に涙を見せてしまいました。
完全に彼女に気持ちを持っていかれてしまいました。