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Best name ~ 追憶 ~

第1章 私の記憶

この人に話したら……


この人なら、本当に
助けてくれるかもしれない…



本当は
助けてほしい……





だけど私は
込み上げるものをぐっと押し殺して
ソウタさんにもウソをつきとおした。



『…。…ううん。言ったままだよ…

ムカついたから……それだけ』










『…っっ…んなワケねぇだろ!
バカヤロオマエぇ!!!

もうちっとマシな嘘つきやがれってんだ!?
オマエがっ…んな事するワケ…!

何かあったんなら、ちゃんと…!
ちゃんと正直に言えアイルっ!!』







つい大声をあげたソウタさんに
職員の目が光り
面会は即中断させられそうになるが……




『~…ケンカ……っつっても相手にも

原因だってあるだろォ?

何か…嫌なこと言われたとかよぉ…』



……。





『……ううん。ちがう

私が……わるいの』




縦に振りそうになる首を
横に振って否定した。



ソウタさんは

じっと堪えて答える私の顔を

少し震えて見ていたような記憶がある。





…何かを、確かめるかのように

じっと私を見て。




そして、それきり

ソウタさんは私にその話をしなかった。






『じゃぁ……また来るからな?』




立ち上がったソウタさんの背中…。



待って…



行かないで…ソウタさん…。



私ね…



私…ほんとうは……。






本当に…この日だけは


この時だけは
ソウタさんに、助けを求めたいと
私は思っていたと思う。



『俺ぁ……待ってるからな?

早く……帰ってこいよ』



『……~……… うん』



しぼりだして、なんとか返事をした。




〃待ってる〃



初めて聞いた言葉。



なんの理屈もなく…嬉しかった。



帰る家なんて……ないのに。



だけど
なんか……嬉しかった。













そして時に
悲しい知らせが届く。









両親が離婚した。









帰る家が、本当になくなったのだと
最終宣告されたような日だった。







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