君を好きにならない
第10章 帰る場所
「俺だって…怖いですよ。
誰にも知られたくないし
知らせる意味さえ
わかりません」
マサシは
いつになく
寂しげだった
「俺も…そう思うよ。
わざわざ
言う必要あんのかって。
女が好きな奴でも
一生結婚しないやつはいるし
俺達の場合
男が好きだってだけで
それ以外は
着るものも言葉も
普通の男と変わらない
だったら
社会でも
私生活でも
わざわざ言わなくても
なんの支障もねぇ」
「そうですよね…」
「だから
カミングアウトとか
そーゆーの
俺はやめたんだ。
自分が楽になっても
そんなこと話された親は
不幸になるだけだろーし
ダチだって
どう接していいか
わかんねーだろうし…
話したことで
距離を置かれることも
あるだろうし…」
「司さん…」
「ま、もしも
お前がカミングアウトを
考えてるとしたら
相当な覚悟をしとけ。
信頼関係があると
思ってる相手でも
手のひらを返したような
態度をとられることだってある。
最悪だよな。
それが
好きな相手だったりしたら
死にたくなる」
「……」
マサシは
小さくうなずいたまま
静かに
酒を口にした
田舎で
何かあったのかもしれない
もしかしたら
マサシも
もう
何かを経験して
傷ついたことか
あるのかもしれない
「仕方ねぇよ。
俺達は
普通じゃねぇんだ、
そう
思ってる方が
楽だぜ、マサシ」
「…はい」