両親の部屋を盗撮したらとんでもない秘密を……。
第1章 プロローグ
「ただいま」
イブの翌日。つまり12月25日の夕方。僕の部屋のドア越しに父さんの声がした。
「お帰り」
僕は、ダルそうに、っていうより、いかにも不機嫌そうなトーンで返事した。じっさいたしかに機嫌が悪かった。
その理由は、前日に仕掛けた盗撮用のワイヤレス(無線)カメラの不具合にあった。
おそらく、送信器側になんらかの問題があったんのだろう、残念なことにまったく映像が映らなかったんだ。
なんとか直そうと、必死で解決策を模索していた最中だったから、よけいにイラついたんだと思う。
「クッソ、」
カメラが入っていた空箱を、思わず壁に向かって投げつけた。
モノに当たったところで結果は変わらない。そんなことはもちろんわかってる。わかってるけど、感情をコントロールできないことは誰にでもある。
こんなときは自慰をしてスッキリするにかぎる。
「ったく、イライラするなぁ」
僕はパソコンを立ち上げ、勢いよくジャージを下げた。
ところがその瞬間、下げたジャージをふたたび素早く上げた。またもやドアの向こうから父さんの声がしたからだ。
「大変だったな」
「え、なにが?」
「なにがって、学校のことだよ」
「あ、まあね」
「母さんはまだ帰ってないんだな」
「うん、たぶん」
「たぶんってお前…まあいい、フライドチキンを買ってきたから冷めないうちに食べなさい」
「ああ、ありがとう」
そういえば昨日からなにも食ってなかったな。