原稿用紙でラブレター
第6章 愛情目盛
「…これでいいかな」
手元の買い物カゴを眺め買い忘れがないか確認して。
普段の食材とはガラリと雰囲気が変わった上、めったに買わないスポーツ飲料とゼリーも仲間入り。
レジで会計を済ませると足早に自宅へと戻った。
***
今日は久し振りに相葉くんと出掛けることになっていた日。
春から始まる新生活の準備をしたいから、と前々からそう約束されていて。
お店を調べたり、ご飯何食べる?なんて昨日までは普通にやり取りしていたのに。
今朝迎えに来てくれた相葉くんを見た瞬間、慌てて家の中に引き入れた。
「ちょっ…え、相葉くんっ!」
火照った顔に虚ろな瞳。
引っ張ればぐにゃりと力が抜けて簡単に抱き留めることができるほど。
「ねぇ大丈夫?熱すご…」
「にのちゃ~…ん…」
覆い被さられた肩口、苦しそうな吐息と共にか細く俺を呼ぶ声が耳に届く。
抱き締めた体はもの凄く熱くて。
それだけで今の容態が全然大丈夫じゃないことが分かった。
油断したら一緒に倒れてしまいそうに預けられた体。
ここはひとまず寝かさないと。
「相葉くん…少し歩ける…?」
「う~…ごめんにのちゃん…」
頻りに繰り返される"ごめん"を宥めながら、壁伝いにゆっくりと部屋の中へ進んだ。
肩を抱いてベッドに腰掛けさせると一層辛そうに歪ませる顔。
こんな状態でどうやってここまで来れたんだろう、ってこんな時なのに妙に感心してしまったりして。
隣に腰掛けて静かに背中を摩れば、項垂れていた顔がゆっくりと上がり。
「…ごめん」
そう弱々しく発する顔はぼんやりと赤らんで。
潤んだ目元は凛々しい眉がいつもとは比べ物にならない程下がっている。
事あるごとに"大人になったなぁ"と思うことの増えたこの頃。
けれど、たまにこんな頼りなくて幼い顔をするもんだからつい。
まだまだあの頃のままなんだなって。
出会った頃がつい昨日のことのように蘇って思わず頰が緩んでしまう。
…もうじき卒業を控えた相葉くんにこんなこと思うのってやっぱりおかしいかな。