原稿用紙でラブレター
第6章 愛情目盛
「…にのちゃん」
聞こえるか聞こえないかくらいの声が耳に届いて我に返った。
思わず緩んでしまった顔を訝しげに見つめてくる瞳はやっぱり潤んでいて。
「……俺の顔おかしい?」
「っ、ううん違くて!…いや大丈夫かなって心配で…」
「……」
「っと…大丈夫?」
逸らさない眼差しがやけに熱い。
熱のせいなのか何なのかジッと見つめられたまま数秒。
「…大丈夫じゃない」
「えっ、わっ…!」
ぐいっと引っ張られた体はバランスを崩して相葉くんの胸元へ。
そのまま倒れ込んだもののベッドのスプリングで緩衝されて。
衝動でぎゅっと瞑った目を開ければ。
荒く上下する胸元の先に半開きの口。
見るからに辛そうなのにしっかりと背中に回された腕は緩むことはなく。
いつもじゃれ合ったりする時でさえ押し倒される場面ばかりなのに。
きっと今日は甘えたいんだ。
火照った体に乗っかってるこの体勢。
俺より大きくて広い胸板も何だか妙に小さく見えたりして。
上体を起こすと目を瞑ったまま上下させる肩が目に入り。
ふらりと持ち上がった手の甲が額に乗せられて更に眉が歪む。
「…相葉くん」
黒染めしたままの髪をさらりと撫でれば薄っすらと片目を覗かせる。
こんな時なのにやけに可愛く見えちゃう。
やっぱ普段は俺には甘えられないって思ってんのかな。
こんなに歳が離れてるんだから全然甘えてくれていいんだけど。
…いや、俺がこんなだから甘えらんないのかも。
「とりあえず寝なきゃ。ね、ほらちゃんとベッド上がろう?」
「……にのちゃん」
「うん?」
「…元気分けて」
ぼんやり覗かせた瞳は期待と自信とが見え隠れ。
きっとこの体勢も確信犯なんだろうな。
…ふふ、もう。
「元気?なに、どうしたらいいの?」
「じゃあ…ぎゅってして」
珍しく相葉くんを見下ろす形になっていた体勢。
顔横についていた手を首に絡めてぎゅうっと抱き着いたら。
さっきより密着したせいか相葉くんの熱が直に伝染してきて。
「…こう?」
「うん。はぁ~…落ち着く…」
耳を擽る吐息と本音。
ほんとに元気を分けてあげてるような、逆にぬくもりを貰っているような。
ぬくもりにしては少々高温すぎるけど。