原稿用紙でラブレター
第1章 原稿用紙でラブレター
にのちゃんの言った言葉の意味を理解しようとするけど、真っ直ぐに見つめてくる瞳に目を奪われて思考がうまく回らない。
「…相葉くんが初めてだったんです」
すると、合わせていた視線を逸らし小さな口を開いた。
「ここに赴任してきて初めて話した生徒が…相葉くんでした。
明るくて友達思いで、誰にでも優しくて…」
ぽつりぽつりと続けるにのちゃんの言葉にトクトクと心臓が早まってくる。
その声や表情から確かに伝わるのは、今にのちゃんは俺の想いに向き合ってくれているということ。
そしてそれは…
きっと拒否してるんじゃないっていうこと。
微かな期待と不安が混じり合う中、静かに紡がれる言葉を全部受け止めようとグッと息を飲み込んだ。
「こんな…なんの面白味もない私にさえ話しかけてくれて。
はじめは、赴任したばかりだから気を遣ってくれてるんだと思ってました。
だけど…そうじゃなくて。
…そうじゃないんだって、気付いたんです」
そうしてゆっくりした動作で俺の右手を取ると、握られた原稿用紙をカサっと開いた。
「ここには…私でさえ知らないような私がいました。
…それは、相葉くんが見つけてくれたんです」
そう言うと、目を伏せたまま唇が緩く弧を描いて。
あ…
あの日以来だったにのちゃんの笑顔にドクンと心臓が跳ね上がる。
そして視線を原稿用紙から俺へと向け、瞳を揺らしながら続けた。
「それに…
私自身の気持ちも見つかりました…」
ピンク色のほっぺたと赤く染まった耳たぶ。
メガネの奥から見上げてくる潤んだ瞳。
そして意を決したように小さく開かれた唇を見た途端、その先の言葉を捕えるように体が勝手に動いていた。
「待ってっ…!」
「っ…!」
叫びながら引き寄せた体をぎゅっと抱き締める。
爆発しそうな心臓の鼓動は、きっと嫌という程にのちゃんにも伝わっているだろう。
「相葉くっ…」
「待って聞いて!
お願い、このままで…」
身を離そうとする小さな肩を更にぎゅっと抱き締めると、ゆっくり力が抜けてすっぽりと腕の中に収まった。
鼻からすうっと息を吸えば、にのちゃんの柔らかな髪からほのかにシャンプーの香りがして。
ドクドク波打つ心臓を無視するように、細く息を吐き口を開いた。