原稿用紙でラブレター
第1章 原稿用紙でラブレター
「俺から言わせて…?
ちゃんと…伝えたいんだ」
密着した体から伝わるにのちゃんの体温が俺の熱と合わさっていくようで。
おとなしく抱き締められたままのその表情は読み取れないけど、全てを受け入れたように身動ぎをしない。
「これ…もう一回提出していい?」
耳元で呟くとにのちゃんの顔がぴくっと動いて。
右手にある原稿用紙を握り締め、クシャっと小さく音を立てた。
「ちゃんと書くから…俺の想い、ぜんぶ。
…見てくれる?」
ずっと伝えたかったこの想いを…
こんな思いがけない展開なんかじゃなくて。
ちゃんと、真っ直ぐに届けたいんだ。
「じゃあ…
提出は…明日までです」
「え…?」
肩口からくぐもった声がぽつりと届く。
そっと体を離そうとしたから腕の力を緩めると、至近距離で見上げられて。
「…放課後、図書室に来なさい」
ほっぺたをピンクに染め上げ、その薄い唇は緩く口角が上がっていた。
…っ!
不意打ちの可愛い顔に一気に体中の熱が上がってきて。
なにそれ…
そんなの、反則…
恥ずかしそうに目を伏せて微笑むその顔に、吸い込まれるように顔を近付けた。
気配に気付いたにのちゃんがふと目を上げた時。
下校時刻を告げるチャイムが校内に響き渡って。
その抜けるような軽い音に、鼻先で固まるにのちゃんと俺。
っ、やっば…!!
「ごっ、ごめん…!
ウソ!今のウソだから!」
口を覆いながら飛び退くように後ずさり、右手をぶんぶん振り弁解のポーズを取る。
あっぶね…!
にのちゃんの顔が可愛くて思わず…
「…ふふっ、」
ふいに聞こえた声に顔を上げれば。
にのちゃんが口元に手を当てて笑っていて。
うわっ…
手の隙間から見え隠れする白い歯と下がった眉に細められた瞳。
今までで一番の笑顔に心臓を一突きに仕留められたみたい。
「ウソって…ふふっ、」
一人楽しそうなにのちゃんを前にそこから動けないでいると、ふぅっと息を吐いてコホンと咳払いをして。
"ではまた明日"と短く告げられ、静かな教室に一人取り残された。
暫く余韻に浸っていたけど、気付くと外は薄暗くなっていて。
込み上げる高揚感とニヤける顔はそのままに、足早に教室をあとにした。