原稿用紙でラブレター
第2章 年上彼氏の攻略法
「そろそろ時間じゃない?準備しねぇと」
「…はい」
促されてようやく動き出すことができ、トンと教科書を揃えて立ち上がった。
そんな俺をじっと見つめる大野先生の視線に気付き、目を上げる。
「…あのさぁ、違ってたら悪いんだけどな」
「…?」
「相葉となんかあったの?」
「っ!」
急に出てきた『相葉くん』のワードに、心臓がぎゅっと掴まれたような感覚になって。
尚もこちらをじっと見つめる先生から目を逸らし、すぐに返答した。
「いえ、なにもありません。
…昨日も会いましたし、」
努めて冷静にそう発してちらっと目を上げれば、未だこちらを見つめている先生と目が合う。
「…ふぅん」
そして顔色一つ変えずにそれだけ言うと、ふにゃっと頬が緩まって笑いかけられて。
「あ、たまには遊びに来いって伝えてよ。
元担任が可愛がってやるって」
「…えぇ、わかりました」
その笑顔につられて口元を緩めると、先生が小さく『ぁ』と声を上げた。
「…笑った?今」
「え?」
「今笑ったろ?うわ~初めて見れた俺!」
目の前で子どもみたいに目を輝かせる先生にただ呆然とするしかなく。
…え、俺そんなに笑ってないの?
一頻り喜んで満足した様子の先生は『今日はいいことありそう』とか言いながら、ふふっと俺に笑いかけて職員室を出て行った。
丁度のタイミングで予鈴が鳴り、その音に押されるように続いて職員室を出る。
廊下を歩きながら、ふと窓に反射して映る自分の頬を撫でてみた。
俺…
相葉くんの前でちゃんと笑えてる?
相葉くんが思う俺で居れてるのかな?
相葉くん…
こんな俺で、ほんとにいいの…?
ふと頭を過ぎってしまったその言葉が、思いのほか今の心境に追い打ちをかけてくる。
余計なことを考えてしまったと後悔しても、一度浮かんだ疑問は簡単には払拭できなくて。
自分がこんなにネガティブな人間だとは思わなかった。
いや、少なくとも相葉くんに出会うまではそんなことなかったはず。
こんなにも誰かのことを想って。
同時にどう想われてるのかなんて、今まではどうでも良かったことなのに。
あぁ、そっか…
こんなに…
俺の中は、相葉くんでいっぱいなんだ…