原稿用紙でラブレター
第2章 年上彼氏の攻略法
一時限目の授業準備に取り掛からないといけないのは分かっているけど、頭と体が全く動き出せないでいた。
机の上に置いた教科書には焦点が合わないまま、ただぼんやりとそれらを眺めることしかできなくて。
昨日…
相葉くんを置いて帰っちゃった…。
というかその前に…
つい気持ちを抑えきれなくて…
…自分から、しちゃった。
あんなこと初めてで。
その時の相葉くんの明らかに驚いた顔。
泣いてしまった俺を心配そうに見る顔。
立ち去る寸前に見えた少し怒ったような顔。
昨日帰ってからずっと、頭の中で色んな顔が代わる代わる蘇ってほとんど眠ることなんてできなかった。
相葉くんも俺も、この春から新生活がスタートして。
あの卒業式の日がついこの間のような、もう随分と経ってしまったような。
そんなことすら振り返る暇もなく、ただ毎日が慌ただしく過ぎていく。
相葉くんが卒業したことでこれからは自分の気持ちにもっと素直になろうと、相葉くんのように真っ直ぐに想える人になろうと。
…相葉くんみたいになりたいと、そう思っていたのに。
いざこうしてきちんと向き合うことになると、どうしてもうまく振る舞うことができなくて。
加えて会える時間も減ってしまったことで、なんというか…『相葉くんの免疫』がなかなか身につかない。
メールや電話ならそんなことないのに。
顔を見るとどこか自分でいられなくなる。
ずっと年下の相葉くんの前で泣いてしまうなんて…
「…二宮先生?」
左側からボソッと声を掛けられ、思わず肩を揺らして振り向いた。
そこには、同じく驚いた様に口を半開きにした大野先生が机に両手をつきこちらを窺っていて。
2秒くらい時間が流れたと思ったら、ぷっと吹きだしながら先生が口を開いた。
「すんげぇクマだね。
昨日寝らんなかったの?」
自分の目の下を指しながらそう言われ、慌ててゴシゴシっと両手で目を擦って見上げる。
「…いえ、大丈夫です。
そんなにひどいです?」
「うん。それにさ、この世の終わりみてぇな顔してんだもん」
そうして笑いを堪えるように口元に手を当てる。
あぁ、だめだ。
つい考え込んじゃってた…
そう言われてしまうと何の反論もできず更に気落ちしてしまう。