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ねぇもう嫌・・・

第10章 心の声



昂(タカブ)った私は、下を向いてぽたぽたと涙をこぼした。



先生が私を抱き寄せ、私は先生の胸元にそっと頭を預ける形になった。



先生の暖かい手を背中に感じる。



「確かに僕の"大事に想ってる"は口だけだったかもしれないね。でもね陽菜ちゃん。
病気の事を"こんな事"って言うの辞めよう?
僕達医師は "こんな事"だなんて思ってない。
陽菜ちゃんの言いたいことは分かるよ。
でも幸せってなんだろう。
健康に生きること?…うん、そうだね。
今の陽菜ちゃんにとっては、病気を患ってから辛いことや苦しい事が増えたんだもんね。」


「うん。」


「でもね陽菜ちゃん、苦しいことばかりじゃないと僕は思うんだ。きっと喜びだって感じられる。」


自分自身を揺るがす重大な問題について、先生は驚くほど流暢に私を諭す。


「…陽菜ちゃんはそれを怖がっているだけだよ。」


「ちがっ…」


「治療から逃げているだけ。絶対、頑張れるから。」


「違う…」


慌てて首を横に振った。


「できるよっ。僕の時も、今日の柊の診察も、頑張ってやってきたんだから。」


「…っ」


「陽菜ちゃんは人一倍強い子だよ。
でも、病気を患って、死に対する執着が強くなったり、これからの事が人一倍不安になることだってある。けど、そういう時にも僕達医者がいるんだよ。」


先生に思ったことをぶつけて、そのまま走って帰ろうと思ったのに


先生が正しいと思えた…



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