赤い糸
第13章 With you
「寂しいけど…しょうがないわね。」
「ありがとう!ママ!」
時間が遅くならないうちに京介さんが家まで送ってくれた。
そして、玄関口まで出てきてくれた記憶が戻り始めたことを告げ
「仕方がないわね…京介くんよろしくね。」
彼の家で残りの日々を過ごす許可をもらった。
有給消化中の私はあとは旅立つ前日に病院に顔を出すことになっている。
「その代わり…最後の仕事は家から行くこと。最終日は家族で過ごすこと。京介さん、そのぐらいはいいかしら?」
「もちろんです。その日までには必ず。」
明日の朝に迎えに来てくれると言う京介さんに手を振って
「もう、ママまで泣いたら私まで泣けてきちゃうじゃん。」
月がひときわ輝く空の下
「いいのよ。嬉しいときも悲しいときも涙はちゃんと流さなきゃ。」
やっと記憶の扉が開いたことをお祝いした。
*
「おはよう、璃子。」
「おはようございます!京介さん!」
約束していた時間よりも少し早く到着した京介さんはもちろんユニホーム姿。
「あんまり無理しないようにね。」
昨晩、あのあと頭痛に悩まされた私をママは気遣うけど
「大丈夫!」
私はとびきりの笑顔でママの不安な表情を拭いさった。
「いってきまーす!」
車に乗り込むと自然と重なる彼の左手と私の右手。
「ちょっ…ここ外ですよ?」
信号待ちの度に唇を奪われるのもなんだか恥ずかしいけど
「いつもそうだっただろ?」
「そうなんですか…」
まだ 少ししか思い出せていない私は戸惑うことばかりだった。
明らかに違う街の景色。
感情が戻り始めたことによって見るものすべてに“京介さん”というファインダーがかかる。
沿道に咲く名も知れぬ花も大きな樹木たちもすべて鮮やかで私の心を満たしてくれる。
「どっち向いてんだ。」
「…んっ。」
そして彼は充たされた心に水をさらに注いでくれる。
「皆さんにどんな顔して会えばいいんだろう。」
「大丈夫。俺が魔女たちの制裁を受けるだけだから。」
「フフっ。なんか想像できます。」
「二度とバット振らせねぇってLINEで言われた。」
残りの時間はすごく少ないけど
「今日もヒット打ちまくるけどな。」
「出してもらえればですけどね。」
「おまえなぁ。」
大切なこの瞬間をただ心に刻みつけたいって思った。