赤い糸
第13章 With you
「長谷川さん…」
「そんな顔して頼んだって無理だからな。」
…制裁
魔女たちからの洗礼とも言うのかな。
京介さんは先週の御祓をただいまベンチで執り行っていた。
「京介さん、諦めてください。」
指定席の一番奥のベンチに座りブスッと膨れて先輩は野球のことになるとすぐに少年に戻ってしまう。
「仕方ねぇだろ?俺もこうしないと幸乃から怒られんだよ。」
「つうか、もとはといえばおまえが悪いんだろ?先週の璃子ちゃん見てられなかったぞ。」
記憶の糸を手繰り寄せ正式に元サヤに落ち着いた二人。
今朝も手を繋いで球場に来てたっけ。
でも、先週とはそのオーラが全然違って見えた。
それは璃子ちゃんの笑顔。
「頼みますよ~長谷川さん。」
「ダメ~」
心が戻り始めたらしいとベンチで京介さんに聞いて『なるほど』と思えたほど璃子ちゃんの笑顔はいつにも増してパアッと華やかで
「じゃあ、ちゃんと魔女たちに頭下げて了解得てこいよ。」
「それは…」
「イヤなんだろ?じゃあ無理だ。」
その笑顔は京介さんの冷めた心にも柔らかな灯りを差し込む。
旅立つ日まで一週間を切った二人。
「わかりました!行って頭下げてくればいいんですよね?」
「だからさっきからそう言ってるだろ。」
その時間は短いかもしれないけど想いは重ねられると思っていたんだけど…
お目付け役で行かされた俺は
「ちゃんと謝ってくださいね!」
ズボンのポケットに両手をがっしり入れてスタンドへと続く階段を昇る京介さんの後ろを歩く。
「うるせぇな…直也のくせし…あ。」
ちょうど昇りきったところで京介さんは立ち止まる。
「ちょっと!危ないですって!」
俺は手すりに掴まってなんとか体制を持ちこたえ、急に立ち止まった原因を覗き込むと
「ちょっ!あれ!なんで?!」
俺はその情景を見てまた階段から落ちそうになる。
「あのバカ。」
京介さんは舌打ちをするとスパイクをカツカツと鳴らしながら大股で魔女たちの席へ向かう。
「おいっ!おまえ何やってんだ!」
京介さんはその情景を見て堪らず声を張り上げるた。
そりゃ張り上げるよね、この現状じゃあ…
「くそっ!」
だって璃子ちゃんが座る席の真横に
「遥香!聞いてんのか!」
腕を組み相変わらずなあの自信たっぷりの笑顔で微笑む元カノが立っているんだから。