赤い糸
第13章 With you
「なんの用だって聞いてんだよ!」
「京介さん、待って!」
京介さんは階段を上がってくると急に大きな声を張り上げて
「イヤだ京介怖い~。」
遥香さんの腕を掴んだ。
「…ふざけんなよ。」
その視線は怖いなんてレベルじゃない。まるで猛獣が威嚇するかのようにギラリと光り
「璃子になんの用かって聞いてんだよ。」
隣にいる私さえも心臓が小さくなる。
「…京介さん聞いて?」
私は彼女の腕を掴んでいる方の腕をギュッと握り必死で思いを伝えるけど
「俺は遥香に聞いてんだけど。」
私の方を向いてもくれない。
困り果てた私は魔女と呼ばれるお姉さまたちに助けを求めるように振り向くと
「京介くん、アザになる前に手を離しなさい。」
幸乃さんがまるで子供に言い聞かせるように穏やかにそう言った。
すると、大きな溜め息をつきながら振り払い、甘い声で痛かったと腕を擦る遥香さんをもう一度睨み付けた。
「この間のネタばらししようと思ったの。」
この人は記憶のない私に京介さんの彼女だと言い切った人。
「ネタばらし?ふざけるな。」
そんなことを平気で言える人だから京介さんの低い声にも怖じ気づくこともせず
「ショック療法って言うの?璃子ちゃんが記憶喪失になって京介を忘れたって聞いたから…私もお手伝いが出来れば…って。」
バカみたいな台詞をズラズラと並べた。
「良かったね。私のお陰で記憶戻ったみたいじゃない。」
なんだろう…
この人との記憶はないけれど…胸がムカムカする。
*
「おまえいい加減にしろよ。」
腹が立つなんてレベルじゃなかった。
璃子がどんな思いでこの話を聞いてるんだと思ったら止められなかった…んだけど…
「ありがとうございます。」
…は?
ここにいる誰もが目を丸くして耳を疑っただろう。
璃子はすくっと立ち上がると
「遥香さんのお陰かわかりませんけど…」
俺の腕に手を添えて満面の笑みで
「私が京介さんの彼女だって思い出せました!」
やりやがった。
長いまつげをバサバサと揺らしながら璃子を見据える遥香は完全に負けた。
遥香の後ろで魔女たちがクスクスと笑いだすと
「遥香、そう言うことだから。」
俺だってもちろん笑いだす。
してやったり顔の璃子は俺を見上げて白い歯を覗かせる。
つうか…コイツ本当に強くなったな。