赤い糸
第13章 With you
こういうときは
「おいで。」
差し出された手を掴むべきなんだろうけど
「璃子…」
掴み方がわからないというか…
「ん?どうした?」
恥ずかしいというか…
「いえ…その…」
なんというか…
「フっ…何にもしないって言っただろ?」
ベッドに先に入ってる京介さんをまともに見ることも出来ない。
ミーティングと称される飲み会に出席してホロ酔い気分で帰宅した私たちは別々にシャワーを浴びて
「それとも何かされたいわけ?」
「ち!違います!」
今に至る。って感じ…
生理はもう終わってるに等しいけど
「…。」
まだ そういうことにするのは抵抗があるっていうか…心の準備が出来ていないというか…
「じゃあ、早く。」
優しく微笑む彼の瞳に吸い込まれるように彼の手を握り
「…おじゃまします。」
「いらっしゃい。」
彼の匂いに充たされたベッドに体を預けた。
「もっとこっち。」
「ヒャイ!」
「だから、そんなに力むなよ。」
ダメだな…
急に腰を引き寄せるれ不自然な声をあげてしまう私。
京介さんはカチコチになった体を全身で包み込んで緊張する私の代わりに大きく深呼吸した。
「…うん、璃子だ。」
掠れた声が彼の胸を伝って聞こえてくる。
繋がれた手がほどかれ
「ほれ。」
腕枕用に枕の下に投げ出されると私は芋虫のように体を這わせ
「だから、緊張しすぎ。」
彼の逞しい腕に頬を寄せた。
感情が戻り始めたけど…記憶が追い付かない。
記憶を無くす前の私はこういう時どうしていたんだろう。
ちゃんと甘えられていたんだろうか。
確かめたいけど現実を知ってしまうと苦しくなりそうでその思いを飲み込む。
「余計なこと考えるな。」
「…ゴメンナサイ。」
長い指先が私の髪を梳くように撫でる。
その心地よさに自然と体の力が抜けていくのがわかった。
お酒の力なんだと思うけど、こんなにも居心地のいい場所がこの世に存在するなんて
「京介さ…」
彼の唇が私の額に添えられて何度もキスをくれる。
それはきっとオヤスミの挨拶なのかな。
「可愛いな。」
「…ん?」
「おやすみ。」
「おやすみなさ…」
ゆっくり重なった唇。
そうだ
私はいつもこの冷たい唇に触れてから眠りに落ちたんだ。
またひとつ思い出したのと同時に深い眠りに落ちた。