
赤い糸
第13章 With you
「フッ…ホントに。」
半年ぶりか、それ以上か…
「口が開いてるっつうの。」
璃子の愛らしい寝顔を見れたのは。
眠りに落ちた瞬間にパカっと唇が少しだけ開くのはコイツの癖。
元々童顔なのだが眠るとさらに幼く見える璃子の頬を指で撫でると
「反則だな。」
無意識にフニャりと頬を緩ませる。
多分…月のモノは終わっているんだろう。
でも、うちに帰ってきた瞬間から璃子は不自然に俺と距離を取り始めた。
そうだよな…感情が戻り始めただけで記憶だってまだ不完全。
そんな常態で無理やりコイツを抱いたって
「幸せそうな顔してんな。」
また心を乱すだけだ。
さっきもそうだ。ミーティングで俺の誕生日の話題が出ちまった。
俺としてはその事は隠しておこうと思っていた。
また不安に思ってしまうから。
案の定、耳にした瞬間に動揺して自分を責めていた。
それじゃダメなんだ。
どんなことがあっても笑って送り出してやりたい。
たとえ俺の心が鳴き喚いていても。
「…ウフフ。」
「ったく、俺の気も知らないで。」
柔らかな璃子の体をもう一度引き寄せ額に掛かった髪をかけあげる。
「あ~。明日までモツかな。」
半年以上我慢してんだ。今必死で耐えてる俺を神様は少しは評価してくれるだろうか。
「モタせなきゃ不味いよな…」
正直な体を落ち着かせるように深呼吸繰り返し
「寝れたら奇跡だな。」
口を半開きにした璃子の顔を眺めながら夜を明かした。
*
…重い。
苦しくて目が覚めた。
…ハッ!
で、一瞬で我にかえった。
この苦しさの原因は…
目に映るのは真っ白なTシャツ
…苦しい
長い手足を私の体にこれでもかと絡めた京介さんなわけで。
「…ううっ。」
たぶん引き離すのは無理そう。もちろん抜け出すのも無理そう。
…参ったなこりゃ
顔だってろくに動かない。
でも…頭上から聞こえる寝息も、胸から聞こえる微かな鼓動も…
うん、覚えてる。
私の大好きな朝の音。
「…京介さん。」
昨晩より少しだけ甘えられた自分を誉めながら名前を呼ぶ。
一つでも多く彼とのことを思い出したい。
そしてその想いを胸に刻みたい。
「…大好き。」
彼が寝た振りをしているとは知らずにありったけの想いを紡いだ。
