
赤い糸
第13章 With you
「…ったく。」
球場で魔女たちと別れの挨拶をすると
「今からそんなでどうすんだよ。」
魔女たちとの記憶を最後の最後まで思い出すことが出来なかった虚しさと悔しさ
「グスンっ…」
そして、それでも寄り添ってくれた感謝の気持ちでいっぱいの璃子は何度も頭を下げながら大粒の涙を溢した。
*
グランドに一礼すると真っ正面にオレンジ色の太陽が見えた。
記憶を無くしてもすぐに瞼の裏に映し出されたこの景色。
私にとってここは大切な場所なんだと体のどこかが覚えていてくれたんだね。
次にここで京介さんを応援できるときにはすべてを思い出せているかな。
魔女と呼ばれる私の大好きなお姉さまたちのことも…
そのお姉さまたちに今日言われた。
『抱かれなさい。』
って。
“ふざけて”とか“からかう”とかじゃなく当たり前のように。
肌を重ねれば京介さんにどれだけ愛されて、どれだけその想いに応えていたかわかるからって。
『カラダは正直だよ。』
って、幸乃さんが最後に涙を流しながら言ってくれた。
今だって大切にしてもらってる。
運転する京介さんに手を繋がれているだけでこんなにも心穏やかになっていくんだから。
「…京介さん。」
「ん?」
「ありがとうございます。」
信号待ちのタイミングで重なる唇。
あと、どれぐらいその冷たい唇を感じることができるのだろう。
カウントダウンは始まっていた。
*
「さて、着いたぞ。」
やっと涙が止まった私は京介さんにエスコートされて車を降りる。
「…ここですか?」
「とりあえずっちゃなんだけど…今回はここで勘弁して。」
京介さんに手を引かれ連れていかれたのはショッピングモールの中にあるジュエリーショップ。
「あの…」
「魔除けっていうか、お守りっていうか…指輪ならずっと付けてられるだろ?」
ショーケースの中には愛らしいリングが散りばめられていた。
「仮っていうのか?まぁ…もっと上等なのは帰国したら買ってやるから。」
この人はここで私を泣かせてどうするつもりなんだろう。
「彼女さん感激しちゃいましたよ。」
「コイツすぐに泣くんですよ。」
すぐに泣くんじゃないよ。
「ありがとうございます…」
幸せだから泣けてきちゃうんだよ。
「何点か出してみましょうか?」
ジャージ姿の癖に格好いいんだから。
