
赤い糸
第13章 With you
「いい加減に機嫌直せよ~」
ベランダで洗濯物を干す愛する姫君の背中に声をかけても
「別にそこまで怒ることじゃないだろ~?」
かれこれ一時間へそを曲げて俺の方を向いてもくれない。
「璃子~」
その原因はベッドの中での甘い告白を俺がバッチリ聞いてしまっていたこと。
モゾモゾと腕の中で動くから浅い眠りの俺はその愛らしい告白を聞いてしまって
『起きてたら“おはよう”とか言ってくれればいいじゃないですか。』
顔を真っ赤に染めながら怒ってるっていうより恥ずかしがってるコイツをまた抱きしめたんだけど…
「…。」
俺のユニホームをバサバサとシワを伸ばしてハンガーにかけて、ズボンをヒョイっと軽くジャンプしながら物干し竿に引っ掛ける璃子には
「お~ぃ。」
俺の声は届いていない様子。
でも、その後ろ姿に俺は頬を緩めっぱなし。
記憶を無くす前もよくこうやって洗濯物を干してる璃子を眺めていたっけ。
今洗濯バサミに挟まれようとしている砂まみれだったアンダーソックスは璃子がきっと手洗いしてくれたんだと思う。
態度とは裏腹に璃子もまた俺との時間を大切にしてくれてると感じる瞬間。
ずっとこんな日々が続いてくれたらいいのに…
なんて 決して言葉に出してはいけない感情が狭い心に押し寄せてくる。
最後に手を振る瞬間まで俺は笑っていたい。
なんの取り柄もない俺が出来るのはたったそれだけだから。
「璃子ちゃん~」
声色に感情が乗らないようにちゃらけて声を掛けると
「ウフフ…」
璃子は俺に背を向けたまま肩を揺らし
「降参です。アハハ!ダメですね~もっと凝らしめるつもりだったのに。」
なんて、眩しいほどの笑顔で振り返った。
その笑顔がまだ昇りきらない太陽の光と重なって眩しすぎて
「…キャッ!」
今から干そうとしているTシャツを手に持った璃子の腕を引き寄せ
「少しだけ…動かないで。」
胸の中に納めた。
「…はぃ。」
璃子の腕が俺の腰に廻る。
「練習終わったら付き合って欲しいところがあるんだけど。」
大して広くない俺の家のベランダで抱き合う俺たち。
「いいですよ。」
璃子が頑張って洗濯物をたくさん干してくれたお陰で
「…んっ。」
少しだけ積極的になった甘い唇を堪能することができた。
今晩はもう
「まだ…もう少し。」
我慢できねぇな。
