赤い糸
第14章 大切な時間
「森田です…はぃ…え?」
飯を食い終わって璃子とキッチンに並んで片付けをしてるときだった。
「先輩、本気ですか?…はい俺としては願ったり叶ったりですけど…」
鳴り響くスマホを手に取るとそれは職場の先輩からだった。
「本当にいいんですか?もちろん、4日と5日の相談会は俺が変わりに出勤します。…え?旅館?…本当ですか?何かスミマセン…」
璃子は食器を片付けながらニヤつく俺を見ていた。
「資料は三段目で…そうです、黄色いファイルの。…はぃ、スマホはいつでも繋がるようにしておきますんで…失礼します。」
ここにきて俺の知りうる神様がいっぺんに現れてくれた。
「璃子!」
これが神様からの贈り物じゃなかったら何だって言うんだろ。
「はぃ?!」
明日の予定を何も決めていなかったのが項をそうしたか
「明日明後日と連休取ってた先輩がさ…」
営業先のお偉いさんに捕まり急遽、接待に行かなければならなくなったから休みを変わってくれないかと。
「本当ですか!」
棚ボタなんてレベルじゃない。
「彼女と行くはずだった温泉旅館もキャンセルするのがもったいねぇから行かないかって!」
神様が高い壁を乗り越えた俺たちにご褒美をくれたんだ。
「行くか?」
璃子は小さな口をパックリ開け、大きな瞳をパチクリさせながらウンウンと頷いて俺の腕に包み込まれた。
昼に食堂で弁当広げたのが正解だったんだ。
あのとき、俺はせっかくのGWに休みが合わなくて彼女をどこにも連れていけないとぼやいた。
それを聞いた先輩がありがたいことに俺にその休みを振ってくれたんだ。
「明日はずっと一緒にいられるんですね。」
璃子が俺の腰に手を回す。
「想い出作ろうな。」
「…はぃ。」
まだ 思い出せない璃子の記憶。
でも、二人で今から想い出を作れば それが離れ離れになる俺たちの糧になる。
「写真も…撮りたいです。」
「あぁ、いっぱい撮ろうな。」
抱き寄せた腕の中で璃子がクスリと笑う。
「そうと決まれば…」
「ですね!」
ボストンバッグに二人分の着替えを詰めていく。
「箱根だってよ。」
「箱根!いいですねぇ。」
行き先なんかどこでもいいよ。
「これはいくつ持ってくかな。3つじゃ足りねぇか?」
「な!…もう!エッチ!」
その百面相を独り占めできるなら。