赤い糸
第14章 大切な時間
「箱根神社?」
「ダメですか?」
平日といえどもGW真っ只中。
俺たちは限りある時間を有効に使おうと早起きして車を走らせた。
車中、スケジュール担当を買って出た助手席の璃子はスタホを片手に箱根の観光名所をピックアップしていた。
「縁結びの神様が奉られてるんですって。」
声に音符が走ってる。
きっと、一番行きたいところはココなんだろうって嫌でもわかる。
「俺たちもう結ばれてるのに縁結びの神様?」
「あのですね…特別な御守りがあるんですよ。」
御守りね…璃子らしいっちゃ璃子らしいか。
「じゃあ、黒たまご食って、芦ノ湖の遊覧船に乗って…神社ってルートでいいんだな?」
「はぃ!よろしくお願いします。」
野球の忘年会の日に幸乃さんと交換した高級旅館の宿泊券。
記憶を無くさなければ俺たち行く予定だったんだよな。
それがあの日すべてを忘れてしまった璃子を見て直也と美紀ちゃんに譲ったんだっけ。
あれから半年。
やっと俺たちはスタートを切ることが出来る。
*
…カシャ。
「おまえなぁ。」
「エヘへ。」
たくさん写真を撮ろうと思った。
アメリカにいってもその写真を見れば頑張れるようにって。
「さっきから何枚撮るんだよ。」
「いいんです。」
いつもの京介さんの姿がほしくて
…カシャ
「だから!」
運転中の彼の横顔にスマホを向けて何度もシャッターを切る。
「ったく、俺ばっか撮ってどうすんだよ。」
昨晩見せてもらった京介さんのスマホの中には まだ思い出せない私がたくさんいた。
大きなユニホームを着てる私とかキッチンに立つ後ろ姿とかシーツの中で肩を見せて眠る私とか…
それこそ唇を重ねる私たちとか…
「ほら赤だ。今がチャンス。せーの。」
「わぁ!」
…カシャ
こうやって事あるごとに頬を寄せてレンズを見る私たちをこの旅行中にたくさん納めたい。
「あ!私目瞑ってる!」
「だっせ。」
「ううっ…」
「ほら着いたぞ。」
まずはロープウェイに乗って大涌谷を目指す。
ベタな観光名所を回りながらベタな箱根旅行をする。
「ほら、早くしろ。」
多くは望まないよ。
こうしてあなたの大きな手に指を絡ませてあなたと同じ空気が吸えたならそれでいい。
「手離すなよ。」
「はぃ!離しません!」
それだけでいいの。