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赤い糸

第14章 大切な時間


「たまごに遊覧船ね…ベタだな。」

豪華すぎるほどに飾られた外装の遊覧船に乗りながら京介さんが笑いながら呟いた。

「それがいいんじゃないですか。」

箱根の代名詞とも言える硫黄の臭いに包まれた大涌谷で黒たまごを食し、豪華絢爛の遊覧船に乗る私たち。

「箱根を満喫してますって感じだよな。」

緑に囲まれた湖上で初夏の風を感じながら大好きな京介さんの手を握る。

「あの…やっぱりこのルートはベタすぎて楽しくないですか?」

「楽しいよ。」

向けられる瞳は柔らかく微笑み私の心を鷲掴みにする。

「璃子は楽しくないのか?」

「た、楽しいに決まってるじゃないですか!」

記憶喪失なんて…随分と無駄な時間を過ごしてしまったと意味もなく反省する。

「ホントかぁ?」

「本当です!」

忘れてしまわなければ…アメリカに行くことはなかっただろうか。

彼との記憶を一つ思い出す度に自問自答する。

「あの鳥居が箱根神社か?」

「みたいですね。」

選択は間違えていなかったんだろうか…今からならまだ強行で断ることができるだろうか…

「なぁ、降りたらソフトクリーム食わねぇ?」

「食べたいです!」

でも、そんなこと出来るわけない。

だって これは私の一つの夢でもあるから。

「京介さん…」

「ん?」

「ううん…なんでもないです。」

ごめんなさい…って言わなきゃいけないんだろうな。

「イチゴソフトってあるかな。」

「イチゴですか?」

でも せっかくのこの雰囲気を壊すのは絶対にいけない。

楽しまなきゃって。想い出いっぱい作らなきゃって。

「ウフフ…京介さんがイチゴですか。」

「なんだよ、いけねぇの?」

「いけなくはないですけど…イチゴですか、ウフフ。」

…カシャ

少し頬を染める彼をスマホに納める。

「あ!おまえ!」

こんな表情に触れるのもあと少し。

「今度は食べてるところ撮っちゃいますからねぇ。」

「おまえ覚えてろよ。」

「何をですか?」

さらに頬を染めた京介さんが可愛くて私は調子に乗る。

でも、勝ち誇ったのも一瞬。

京介さんは屈んで私の耳に頬を寄せると

「今日は寝かせてもらえると思うなよ。」

「はぃぃ?!」

あっという間に主導権を奪い取られる。

「楽しみだな~」

悔しいけど…その勝ち誇った顔も大好きなんだな…これが。

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