赤い糸
第15章 永遠
…んっ…アレ?
目覚めると
ガバッ!!
そこに璃子はいなかった。
「ウソだろ…」
昨晩の事後を安易に想像できるもうひとつの布団も綺麗に片付けられていて
…マジかよ
俺は顔面蒼白で焦って飛び起きると
…あ
「…ったく、ビビらせんなっつうの。」
テーブルの上に璃子の花柄の化粧ポーチが置いてあるのに気づいて俺は安堵の息を漏らした。
*
「うーん、極楽極楽…」
まだ夢の中にいる京介さんをおいて私は部屋の露天風呂に浸かっていた。
朝の光に照らされた薄緑色をした山並みに空高く響く小鳥のさえずり
「贅沢だな。」
私はそこで天を仰いで気だるい体を目覚めさせていた。
「それにしても…これどうすんのよ。」
私の体には昨晩京介さんが咲かせた無数の赤い花が咲き誇っていて
「ここまでやりますかねぇ…」
その痕は求めあうままに愛を重ねた証拠だった。
その一輪をそっと撫でると京介さんとの夜が思い出され ギュッと胸義苦しくなった。
次に会えるのは…肌を重ねられるのはいつなんだろう。
あの川野先生のことだ。向こうに行ってもそうそう帰ってこれるはずはない。
私は両手にお湯を汲んで顔にパシャりと掛けた。
「ダメダメ…泣かないよ。」
もう一度お湯を汲んで溢れだした涙を流そうとすると
…ガラッ
「おまえなぁ!」
「わっ…キャッ!」
京介さんがタオルを肩に掛けドカドカと入ってきた。
「ほら、どけ。」
程よく鍛えられた体が朝の光に反射する。
目のやり場に困る私は背を向けて湯船の隅で背を向けるんだけど…
「ちょっと待ってください!」
「俺をおいてさっさと入ってるくせに…待つわけねぇだろバカ!」
昨晩と同様に彼の長い脚の間に私は身を沈めることになる。
でも、今日の彼は違った。
「勝手にいなくなるなよ。」
それは抱きしめる彼の腕の弱さと切ない声色。
「…ごめんなさい。」
そうだよね…今日はサヨナラの日。
私は振り向き京介さんの顔を見上げると
「朝から俺を困らせるヤツは…」
彼は待ってましたとばかりにニヤリと微笑み
「ダメダメ!ごめんなひゃい!」
無防備な私の脇腹をコチョコチョと弄ってきた。
「おりゃ!」
その大きな手はいつしか私をギュッと抱きしめる。
いつまでもこの腕の中に居たいのに…
私はそのぬくもりに手を添えた。