赤い糸
第1章 約束
新年を迎えたばかりだというのにやけに暖かく感じた土曜日。
「アイツ張り切ってるな。」
風が無いからなのか体を動かしてるからなのか
「そりゃそうですよ。今日はスタンドに璃子ちゃんが応援に来てますから。」
心が踊ってる先輩を見てるからなのか
カキーン!
「うわっ!すげぇまた打った。」
ランナーをホームに返しダメ押しの一点を追加したのは、俺が慕っている高校時代の野球部の先輩の森田京介さん。
「アイツ今日猛打賞じゃね?」
打って守って声張って、俺らの代を引っ張ってくれた頼りになるキャプテンで
「キャー京介先輩~!」
そんでもって黄色い声援が飛び交うほどの高身長で甘いマスクのイケメンさん。
一塁ベースの上で声援に応えるようにヘルメットを取ってスタンドに手を上げると
「格好いい~!」
黄色い声援が一段と大きくなる。
「どんなに色目使ったってアイツには璃子ちゃんしか目に入ってないのにな。」
京介さんの視線の先には人一倍大きく手を振る愛してやまない彼女の高円寺璃子ちゃん。
「京介さ~ん!ナイスバッティング~!」
璃子ちゃんに出逢うまで『オンナなんかヤれればいい』なんて長年付き合っていた彼女にまで冷たかった人なのに
「鼻の下伸ばしちゃって。」
俺のスマホのなかの彼女に一目惚れしたあの日から璃子ちゃん限定で柔らかく笑うようになったんだ。
*
「お疲れ様です!」
「おぅ、サンキュ。」
目を細めてそれはそれは幸せそうに微笑んで
「今日も大活躍でしたね…って、もう!」
お決まりのように被っていた野球帽を小さな頭に被せ
「当たり前だろ。」
帽子のツバで隠れた顔を覗き込む。
「ウフフっ」
そんで一回りも二回りも小さな手を握り、俺のモノだと言わんばかりに連れ回す。
「約束通り三本打ったからご褒美期待してるぞ。」
京介さんの肩に届くか届かないぐらい小さい璃子ちゃんは 頬を真っ赤に染めて帽子のツバで顔をまた隠してしまう。
「なにしてもらおうかなぁ。」
彼女もまた京介さんが初めてのオトコ。
「あっ!また京介さんに苛められてるの?」
「ち…違うよ美紀…」
俺から見たって可愛い璃子ちゃんは俺の彼女の美紀の親友で
「京介さん!璃子に意地悪しないで!」
「だからしてねぇし!」
茜色の空をバックに俺たちはいつまでもはしゃいでいた。