赤い糸
第1章 約束
「長谷川さん今の聞きました?」
「野暮なこと聞くおまえが悪い。」
その流れで球場近くにある居酒屋に気の知れたメンバーと雪崩れ込むっていうのが定番な俺ら。
「長谷川さんまで美紀の味方ですか?」
この長谷川さんは京介さんのさらに先輩で俺らの兄貴分。
高校時代の野球部のOBで作られた野球チームの現キャプテンであり良きパパであった。
「でも、結婚するなら直也くんは美紀ちゃんのお手伝いもっとしないと。」
「まぁ…そうですけど…」
そして、俺を宥めるように優しくも的確にアドバイスをくれるのは長谷川さんの奥さんの幸乃さん。
「ケンタ、璃子ちゃんを困らせちゃダメよ。」
「困らせてねぇし。」
長谷川さんと幸乃さんの間には璃子ちゃんのことが大好きな今度小学校に上がるケンタとまだ歩き始めたばかりのちぃちゃんがいる。
「いいなぁ。俺も早くオンナ見つけて結婚しよう。」
ブー垂れるように酒を飲んでいるのは京介さんの同級の佑樹さん。
「おまえは少し遊びすぎなんだよ。」
「それは違うぞ!俺は璃子ちゃんをおまえに譲ったんだ。」
佑樹さんは本気で璃子ちゃんを狙っていた過去があるけど
「譲ってもらってねぇし。璃子は元々オレのだし。」
このオレ様イケメンに勝てるはずもなく敢えなく撃沈したのだった。
こんなどうでもいい会話を京介さんの彼女の璃子ちゃんはいつもニコニコ微笑みながら見守っていてくれた。
璃子ちゃんに初めて会ったとき こんなに男に馴れていない子がいるのかと思った。
小さくていつもニコニコした色の白いフワフワした女の子。
誰だって守ってやりたいと思ってしまうそんな彼女は男に免疫が全くなかった。
話しかけてもすぐに頬を真っ赤に染めて俯いて、返事だってすごくか細い声だった。
あの百戦錬磨の京介さんさえも柄にもなく時間をかけてお試し期間なんてのを設けて璃子ちゃんのペースに合わせてた。
…二人は運命だったんだろうな。
時間をかけて二人は赤い糸を手繰り寄せ京介さんの宝物となった。
「っていうか、まだ京介のじゃねえよな?」
「オレのだっつうの!」
あんなにクールだったのに璃子ちゃんのこととなると独占欲丸出しで
「璃子ちゃん、こんなヤツと別れて俺と…」
「だからうるせぇよ!」
俺らの前で抱き寄せてしまうほど愛する女性を見つけたんだと思いしらされた。