赤い糸
第4章 優しい心
「おまえにしては頑張ったな。」
長谷川さんは京介さんの肩を労うように叩いた。
「そうだな、京介にしては上出来だよ。」
佑樹さんはぬるくなった熱燗を京介さんのお猪口に注ぐ。
俺たちのスマホに美紀からの返信はまだない。
京介さんはグイッと一気にお猪口を開けると
「アイツ…本当に俺のこと忘れちまったんだな。」
クスクスと笑いながらそう言った。
「手繋ぐと、こんなマメだらけな手を璃子は好きだって言ってくれて。」
そうだね。璃子ちゃんは京介さんと手を繋ぐ瞬間いつもとびきりの笑顔を見せていたね。
「アイツにとって俺は初めての男だったから少しでも不安を取り除いてやりたくて『絶対に璃子にウソはつかない』って宣言したんだ。」
璃子ちゃんが記憶喪失になってから京介さんは変に笑う癖がついていた。
「キーワードって言うの?きっかけになってくれればと思って、会話の端々に入れてみたんだよ。それが不味かったかな。」
それは自分自身を笑っているかのような冷めた笑いで正直見てられない。
「京介さん…」
…だから璃子ちゃん…変なこと言わないでくれよ。
俺は悔しくて拳を握りしめると長谷川さんは
「よし、もう一回作戦会議だ。」
まだ試合は終わった訳じゃないとニヤリと笑った。
先輩のいうことは絶対なんだ。
「地道に毎日LINEすれば?…って、ダメか。璃子ちゃんのスマホあの日に壊れちゃったんだよね。」
でも、初心に戻って答えを模索するけど
「そうなんですよ、バックアップも取ってないからデータがパーになったって美紀がいってました。」
「京介から一方的にLINE送ってもなんでID知ってんだってことになるし。」
なかなかいい答えは見つからない。
「やっぱ、逢わなきゃ進まねぇな。」
「ですね…」
俺たちは自分たちの無力さを思い知る。
…頼むよ璃子ちゃん!
俺はスマホを手のひらに挟んで店の神棚に頭を下げると
ピロリン♪
みんなのスマホが一斉に音符を奏でた。
「きた!」
思いが通じたのか待ちに待ったメッセージ。
『私が出来ることはした。あとは璃子次第かな』
首の皮一枚繋がったってことだろうか。
京介さんはそのメッセージを確認すると指先を動かす。
『みんなに感謝してる』
不器用な京介さんのメッセージに俺たちはくだらない言葉を送り返してやった。