赤い糸
第4章 優しい心
…早く返事寄越せよ
俺はさっきからスマホを開きっぱなしにして美紀からの返事を待った。
「京介、おまえ璃子ちゃんに何したんだよ。」
さっきまでのお祭り騒ぎが夢のよう
テーブルには調子にのって頼みすぎたツマミがどれも中途半端に残されていた。
「二人でなに話した?」
「別に…」
俺と美紀が気を利かせて離れたときはお互い頬を染めて目を細めていた。
「別に…じゃねえよ。よく思い出してみろよ。」
長谷川さんも佑樹さんもその姿を見て密かにガッツポーズしてたぐらい。
「知らねぇって。」
「知らねぇじゃねぇだろ。」
だからここまで詰め寄るんだろうな。
みんな揃いも揃って椅子にだらしなく凭れ溜め息の嵐。
「俺が知りてぇよ…」
いつもはクールを決め込む京介さんはさっきから髪を何度もワシャワシャとかきあげ発狂しそうだった。
こんな京介さんを見るのは初めてだ。
そりゃそうだよな。球場で別れたときは笑顔で手を振って、美紀からの経過報告第一号は京介さんの話ばかりしてると俺らの心を浮かれさせたもんな。
それなのにもう来ないってどういうことなんだろう。
璃子ちゃんのことだからきっと理由があるはず。
その理由を俺らは美紀に託していた。
「勘弁してくれよ。」
ヤキモキした時間が流れ続ける。
未だにテーブルに並ぶツマミの量は減ることはなかった。
その嫌な空気を嫌ったのは俺らのリーダーの長谷川さんだった。
京介さんの前にある空のグラスをテーブルの端に寄せると
「京介、よーく思い出せ。球場に来てくれなくなったら接点が限りなくゼロになる。おまえそれでもいいのか?」
目を閉じてあのときの情景を京介さんは思い出しているのだろうか、ゆっくりと息を吐くとテーブルの上に乗せた手をじっと見て
「迷惑かけてもいいからまた来てほしいって言った。」
京介さんらしからぬ小さな声で…
「手のマメの話もした。」
「マメ?」
「あぁ…このマメ見て痛くないかって聞かれたから痛くないって。」
「それで?」
「疑うから俺は璃子には絶対に嘘をつかないって言った。」
俺たちは言葉につまる。
「どこが不味かった?俺なんかした?」
してないけど、きっとしたんだよ。
「なぁ、教えてよ。」
だって 俺たちには京介さんの言葉の中で百面相して微笑む璃子ちゃんの姿が見えたから。