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赤い糸

第5章 ぬくもり


「わぁ…綺麗!」

おまえは俺のこと覚えてないかもしれないけど

「穴場だろ、ここの夕陽。」

俺はおまえのこと何でも知ってるんだ。

バックスクリーンと木々の間に落ちていく夕陽

「気に入った?」

「はぃ!スゴく気に入りました!」

おまえはここから眺める夕陽が大好きだったよな。

手摺に身を乗り出して真っ白な肌を茜色に染めて

「スゴい!スゴいです!」

口をパックリ開けて、大きな目を輝かせて

「興奮しすぎだっつうの。」

「す…すいません。」

…久しぶりだよ。おまえのそんな顔見るの。

俺と目も合わそうともしなければ、ろくに口も聞いてくれない。

警戒されてるんだってわかってる。

そうだよな…おまえには俺じゃない医者の彼氏がいるもんな。

わかってるんだ…誰のせいでもないって。

強いて言えば俺の今までのオンナ癖の悪さに女神様がお灸を据えてるってところか。

おまえに出逢うまでオンナを道具にしか見てこなかったもんな。

長く付き合ったオンナはいたけど心底惚れた訳じゃない。ただタイミングが合わなくてズルズルと関係を続けてしまっただけ。

そのおかげで璃子に悲しい思いまでさせてる。

でもあの日、直也のスマホの中のおまえを見つけて璃子と付き合うようになってから俺のすべてが変わった。

「綺麗ですね。」

不思議だよな…おまえと見ると見慣れている景色がこうも違うんだ。

夕陽にはいろんな色があるってこと。

オレンジや赤だけじゃなく闇が深くなっていけば紫色にもなるってこと。

璃子と出逢わなければ知ることもなかった感情。

「京介さん見て下さい!一番星です!」

「ん?」

…そんなに声張り上げて

一番星か…ガキの頃はよく探したけど最近じゃ気にも止めてなかったよ。

指差すその場所にキラリと光る星はあるけれど

「真っ赤じゃねぇか…」

「…え。」

その手の色は夕陽の色じゃねぇよな?さっきまで洗い物をしてたせいだろ?

「冷てぇな。」

いけないとわかっていながらも掴んだ右手

「ほら、そっちも。」

迷うことなく差し出された両手を俺のマメだらけな手で包み込む。

「おまえは頑張りすぎなんだよ。」

触れてしまったずっと触れたかった小さな手。

「璃子…」

このまま時が止まればいいのに…

だって俺たちはおまえが記憶を無くす前も確かにここにいたから

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