赤い糸
第5章 ぬくもり
「悪かったな付き合わせちまって。」
「いえ、こちらこそご馳走になっちゃって。」
自力で帰ると宣言する私を心配だからと車で送ってくれることになった。
「今日もたくさん打ってましたね。」
その車中、私は今日見た練習試合の感想なんか述べてみたりする。
「だろ?璃子の前で格好悪いところは見せられないからな。」
「ウフフ、京介さんはお上手ですね。」
「いや、本当だって。」
京介さんは野球の話となると少年のように目をキラキラと輝かせる。
「本当に野球が好きなんですね。」
「あぁ、俺から野球取ったら何にも残んねぇもん。」
最初は凄く警戒していた。
甘いマスクと高身長という抜群の容姿がそう思わせたのか
頭にグルグルと包帯を巻いた私を球場に誘ったり、頭を撫でて頭痛を引き起こさせたり
女の人に慣れてるって思った。
「今日も来てくれてありがとな。」
でも、彼に接する度に
「いえ、楽しかったです。また迷惑かけちゃいましたけど…」
「だから、迷惑はいくらかけても良いって言ったろ?」
京介さんは誰よりも野球を愛し、誠実で真面目な人だと気付かされた。
それに今日、二人で綺麗な夕陽を見た。
それが凄く嬉しかったからかな
「また来てもいいですか?」
今日の私はおしゃべりだ。
ハンドルを握り余所見を出来ない彼の横顔を覗き見ると
「もちろん!俺は大歓迎。」
その笑顔に私の心は音を立てる。
「来たいときに来ればいい。みんな待ってるから。」
「ありがとうございます。」
でも、楽しい時間は私の感情を無視してあっという間に過ぎていく。
「あ、次右です。」
一つ角を曲がる度に小さな溜め息が溢れる。
1日は24時間
万人に平等に与えられた時間
「ここも右です。」
車内にウインカー音がカチカチと鳴り響く。
この角を曲がれば私の家はもうすぐそこ。
…いけない。こんなこと考えちゃ。
車が角を曲がりきると私は現実へと戻される。
…私には達也さんがいるんだ。
ここ最近何度も自分に言い聞かせてる言葉。
大切にしてくれている彼に申し訳ないでしょって。
「はい到着。」
その大人な彼は私の体を気遣ってくれているのに
ダメだな私…
私はお礼を言うために振り向くと
「…璃子」
彼に時間を止められた。
微笑む京介さんの瞳に私だけが映っていた。