赤い糸
第5章 ぬくもり
「いや…その…違うんだ…」
…あぁ、俺はなんてバカな男なんだ
「ホント、違うんだ…」
大きな瞳に引き寄せられるように無意識に唇を重ねようとしたオレ…
「い、いぇ…すみません…」
危うく璃子にキスするとこだった。
やっとここまで距離を縮められたというのに何やってんだ…
穴があったら入りたい。まさにこんな感じ。
「いや…俺の方こそ…」
なんて頭を下げるけど
別にキスしたっていいんだよな?
だってコイツは俺のもんだし、誰にもやったつもりはねぇし…
頭の中にたくさんの言い訳が溢れ出す。
でも男として今の璃子にキスするのはやっぱり反則だ。
あの医者に宣戦布告をしたんだから正々堂々と戦わなきゃ男が廃る。
だってそうだろ?
助手席のおまえは胸に手を当て頬を真っ赤に染めて俯いて
「…ゴメン。」
何について謝ってんのかもわからないけど俺は頭を下げてしまうほど非は明かだった。
でもな、俺の女は良くできたオンナなんだ。
「今日は色々と…ありがとうございました。」
こんなときなのに頬を染めながらも何もなかったかのように笑顔を俺に向けてくれる。
そう言えばコイツは気遣いのできる俺には勿体ない女だったっけ
「いや、無理に付き合わせちゃったな。」
そんな笑顔を見るとやっぱりコイツが好きなんだって思い知らされる。
「今日は楽しかった。ありがとな。」
「私もですよ。スペシャルなディナーもご馳走になっちゃいましたし。」
キスなんか思い出してくれたらいつだって出きるんだ。
「あのさ…」
一歩前に進めた結果がコイツのこの満面の笑みなら
「また、誘ってもいいかな?」
もっとその笑顔を独り占めしたい。
「え…」
「ダメかな。」
欲張りな俺の本性。
「…また、誘ってください。」
言ったな?
「京介さんのお家にも遊びにいかなきゃいけませんしね。」
「そうだな。それじゃあ部屋綺麗にしないと。」
俺はすぐに鵜呑みにするぞ?
「じゃ、おやすみ。」
「おやすみなさい。」
なんて手を振る俺だけど ドアを開ける後ろ姿を見るとやっぱり後悔してしまう。
…キスしちまえば良かった。
でも、ダメだ。
その微笑みをいつまでも見たいなら俺は暴走したらいけないんだ。
…お楽しみは後でってことで
だって俺らまだ二度目の春が始まったばかりだもんな。