赤い糸
第5章 ぬくもり
「アハハハッ!」
「マジ、ウケる!」
「おまえら…」
始めてだ。
「いやいや、さすがの京介も人の子だったってことだな。」
「…。」
京介さんがこんなにもからかわれるなんて。
議題はもちろんこの間の練習後のデートの話。
この年にもなって報告会なんてバカらしいけど
「ホント、勘弁しろよ。」
プロデューサーの俺たちが二人の話を聞くのは今後のためにも当然の権利。
っていうか、俺は美紀から京介さんが怖じ気づいてしまった話を聞いて これを報告しないわけにはいかないと本日の幹事を二つ返事で請け負った次第である。
「あの京介がツレにキスも出来ないなんてな。」
「うるせぇ佑樹!」
「京介がだぜ?よく止まったよな。」
「…ホントもう勘弁してくださいよ。」
京介さんは何の釈明もできないので、さっきから何度も耳を塞ぐように頭を抱え込んで髪の毛はボサボサで。
「でもビックリしましたよね。美紀から聞いたときは耳を疑っちゃいましたもん。」
「つうか直也!おまえはよくもまぁペラペラと…」
「痛いっ!痛いです!」
まさか、まさかだよ。
京介さんの暴走から始まったデートがここまで成功するとは俺たち思ってもみなかった。
璃子ちゃんと重ねた時間をもう一度確かめるように寄り添ったデート。
美紀の話では報告をしている間の璃子ちゃんは終始ご機嫌で記憶を戻すよりも早くに心を奪われるんじゃないかって
「でも、良かったな。」
一時はどうなることかと思ったけど繋がれた糸はそう簡単には切れやしない。
「よし、乾杯だ。」
「またですかぁ?」
単純な俺たちはグラスを高く重ねて二人の進展を祝うけど
「直也、医者と璃子はどうなってんの?」
誰よりも璃子ちゃんを愛する男はそう簡単には喜ばない。
「えと…」
「遠慮すんな。おまえからしか情報入らねぇんだから。」
確実に自分のモノにするまで浮かれてなんかいられない。
「今日から3日間…学会で仙台に行ってます。」
「二人で?」
「…。」
一喜一憂。
なかなかうまくは進まない。
「マジか。」
俺らはまた頭を抱え込む。
でも、京介さんはさらに頭を悩ませる。
「アイツ…明日誕生日なんだよな。」
3月14日。それは璃子ちゃんのお誕生日。
イタズラな女神さまはどこまで二人を苦しめるのだろうか。