赤い糸
第6章 誕生日
「ほら貸せ。」
「ありがと。」
達也さんはいつも絶妙なタイミングで私をエスコートしてくれる。
「何日滞在するつもりなんだよ。」
「女子は色々と大変なんです!」
新幹線を降りた私は彼の後ろを置いていかれないように歩く。
「腹減った。飯食いたい。」
「食べてたら佐藤先生の発表に間に合いませんよ?」
「やっぱり寝ないで食っておけば良かった。」
ここのところ多忙な達也さんは新幹線に乗り込むとあっという間に夢の中に旅立った。
それでも、仙台までのたった一時間程度の睡眠しか確保できていない。
「あとでコンビニで何か買ってこようか?」
「悪い、頼むわ。」
こんな日々を過ごしているから私たちは二人だけの甘い時間がなかなか取れずにいた。
「そんな顔すんな。明日の夜は時間作るから。」
「…うん!」
でも、明日は私の23回目の誕生日。
学会は明日の夕方までだからと そのあとの時間を達也さんは空けてくれていた。
*
「じゃ、20分後ロビーで。」
私たちはいつも別々の部屋を取る。
それは彼が学会後も仕事を抱えているからだ。
「高いなぁ…」
だから私はいつも高いこの場所から初めて訪れる街を一人で見渡す。
「明日、春の大会って言ってたな。」
見下ろす街を歩く人たちは春らしい淡い色を身に纏い始めていた。
だからかな…私は先日の淡い時間を思い出してしまう。
京介さんに出会ってまだそこまで時間は重ねていないけど
達也さんとは違う心地よさに私の心はあたたかくなるけど
「いけない、いけない!私には達也さんがいるでしょ。」
芽生え始めていたその淡い気持ちを私は圧し殺す。
だって明日は忙しい達也さんが私のために時間を作ってくれた。
それも私の誕生日。
最近、達也さんのぬくもりに触れられなかったからその心の穴を京介さんに求めてしまっていただけなんだ。
「このスーツで良かったんだよね?」
あの事故以来、何故だか心にポッカリと穴が開いている感覚。
埋めようとしても埋められないその何か。
「うん!これでよし!」
その何かを京介さんに求めてしまっている私はズルい。
ドアを開け彼の待つロビーへと急ぐ私。
「お待たせです!」
「遅いっつうの。」
彼の腕に私の腕を絡ませて微笑み合う私たち。
この人を裏切ったらいけない。
と言い聞かせた。