赤い糸
第6章 誕生日
「参ったな…」
そう言えば美紀ちゃんの彼氏も野球チームに所属してたんだっけ。
「キミはいつも真っ直ぐの豪速球を投げてくるよね。」
「すいません。私、気が短いんで。」
毎度のことながらこの子の直球は痺れるほど気持ちがいい。
「じゃあ聞くけど…俺が本気出したらあの兄ちゃんから璃子を奪えると思う?」
「そうですね…あの子が勘違いしてるので分はありますよね。」
「言うねぇ。」
仕事ぶりを見てても思うけどこの子はどんな人にも媚を売らない。
まぁ、それがいい部下の条件なんだけど。
「キミは京介くんとも仲がいいのにそんなこと言えるんだ。」
「璃子が幸せになることが一番なんで。」
璃子とは正反対の場所にいる子なんだな。
コーヒーはブラックだし私服も甘い要素は一つもない。
でも、女性らしい立ち振舞いが色香を漂わせる。
「さすが璃子の親友だな。」
正反対だからこそ、この子が傍にいてくれるから璃子は璃子でいられるんだ。
「だから言わせてもらってるんです。いいんですか?京介さんはもう遠慮なんかしてきませんよ?」
でも俺からしたら璃子と同じまだまだお子さま
「だろうね。あの兄ちゃんのことだ、ホームラン狙ってバッド振りまくるだろうな。」
「だから言ってるんです。」
お子さまなのに生意気ときましたか…
「フフツ…そか。だったら申し訳ないけど俺の手の内は見せられない。」
「…え。」
「俺もここからが勝負なんだ。ホームランじゃなくても点は入れられる。俺は俺なりのやり方で璃子を振り向かせる…OK?」
頭のいいこの子のことだ。
璃子の記憶を蘇らせるためだけに利用されたんじゃ堪らない。
「でも…」
「大人はズルいの。ごめんね。」
正々堂々…と、アイツ言ったことに二言はない。
「じゃ、回診行ってくるよ。」
「先生…」
悪いけど大人になっても譲れないものは譲れないんだ。
開けっ放しだった白衣のボタンを一つだけ閉めて病棟へと続く扉を開ける。
記憶喪失になって話が流れたと思ったか…
あの席で美紀ちゃんからアメリカ行きの話は出なかった。
「ツメが甘いねぇ。」
俺は舌を出したジョーカーを持っている。
「師長、回診始めましょう。」
どんなにキミが大人びた格好をしたとしても
「お願いします。」
歳を無駄に重ねた大人には敵わないんだよ。