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赤い糸

第7章 サクラ


ベンチを速攻抜け出してスタンド席を駆け抜け

「…ハァハァ。」

バックスクリーンの横に立っていた璃子のとこまで

「ど、どうしたんですか?」

全力で走ってきた。

「なんで?…ハァハァ…」

「大会って…聞いてたので…」

オレは本当にバカだ。

「…ハァハァ…一人で?」

「ダメ…でした?」

まさか一人で見に来てくれるなんて思いもしなかった。

「いや…すげぇ嬉しい。」

センターを守っていた俺とこの場所は目と鼻の先。

「今日は調子悪いんですか?」

「いや、そうじゃなくて…」

やる気のない守備に、空を切りまくるスイングを見せちまったなんて。

ホント、なにやってんだオレ…

こんな時こそアピールするべきなんじゃねぇの?

「カッコ悪る。」

しゃがみこむ俺の横に璃子もクスクスと笑いながらしゃがみこむと

「そんなことないですよ。」

こんな俺を励ましてくれるなんてな。

すぐにでも抱きしめたいぐらい嬉しかった。

「京介ー!」

「ヤバっ!」

試合はまだ終わってない。

「試合終わったら送ってくから待ってろよ!」

「え…どこで?」

「駐車場!わかったか!」

「はぃ!」

俺は数分前に全力疾走してきた道をまた同じぐらい必死で走り抜ける。

アイツの頭の隅に残ってんのかな?

俺への返事は“はい”か“イエス”しかないって。

「な、わけねぇか。」

*

「単純だよな。」

「は?」

「顔がだらしねぇぞ。」

「うるせぇよ。」

コイツらの言ってることは100%合ってると思う。

「会ったらタイムリーとか有り得ねぇだろ。」

久しぶりにあの笑顔に触れて一気に充電完了した俺は

「実力だっつうの。」

この試合のヒーローとなる。

…どこだ?

ヒーローになった俺はさっきまでのグチグチした俺じゃねぇ。

…おっ、居た居た。

駐車場の片隅にあるベンチに座る璃子に手を振り

「チョットこっち来てくれる?」

声を張り上げ、チョコチョコと走る璃子を見ながら

「幸乃さーん!」

俺らにとって大切な人を呼ぶ。

「京介くんいいの?」

「あの人見知りの璃子が一人で来てくれたんだ…」

その勇気を俺が買わないで誰が買う?

「俺もう我慢しねぇから。」

もう迷わない…

「京介くんはそうでなくっちゃ!」

「痛ぇっ!」

何があっても絶対逃がさない。

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