赤い糸
第1章 約束
柔らかな視線を感じ目を開けると
「璃子。」
優しく私の名前を紡ぐ愛する人。
「ごめんなさい…私…」
「意識飛ばすほど気持ち良かった?」
「え…」
意地悪に微笑みながら私の瞳を覗き込む。
だから私は彼の大きな胸に顔を埋めて赤く染めた頬を隠す。
「照れんなよ。」
「…変なこと言うんですもん。」
意地悪をされているのに彼の鼓動を感じれば私の頬は緩んでいく。
「こっち向けよ。」
「イヤです。」
「向けって。」
まるで子供をあやすように私の体を左右に揺する。
あんなに男の人が苦手だったのにね。
あの頃のアタシが今の私を見たらきっと目を丸くして言葉を失うんだろうな。
「見せろ。」
「…もう!」
額をグッと押されて顔を上げさせられると冷たい唇が私の唇に音を立ててキスを落とす。
そして
「痛いです!」
今度は私の体をギュッと強く抱きしめて
「おまえは俺のモノだからな。」
「…はい。」
週が開ければまた川野ドクターと学会に行く。
「彼女のフリも許した訳じゃないからな。」
川野ドクターは循環器外科の腕利きの若いドクター。
だから言い寄られたり、うちの娘に…なんてケースもあるので私は秘書兼彼女役として同伴する。
「わかってます。私には京介さんだけですから。」
京介さんがこの設定を快諾してくれたわけではない。渋々って感じ。
でも、渋々でもヤキモチ妬きの彼がなんとか目を瞑ってくれる現状に感謝してる。
「あ~でもなぁ。今度は一週間だろ?」
京介さんは私の首に顔を埋めて大きなため息をこぼす。
「たった一週間です。帰ってきたらすぐに球場に行きますから。それに…」
「ん?」
「こんなに印をつけられたら浮気も出来ませんよ?」
私の胸にはたくさんの彼の想いが散っていて
「そんなのすぐに消えるし。」
唇を尖らせて拗ねるあなたはさっき私を愛してくれたときとは別人のように愛らしい顔をしながらスッと差し出したのは長い小指。
「…はい。」
「何ですか?」
「指切りだよ。」
「指切り…ウフフわかりました。」
長い小指に私の小指を絡めると
「約束な。」
「はい。約束です。」
自然と重なる唇に私はまた身を任せる。
*
ずっとこんな日が続くと思ってた。
この絡めた小指に赤い糸が繋がってるって信じてた。
それなのに…ね…