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赤い糸

第7章 サクラ


「ゴメンナサイね。」

私はなんてバカなんだろう…

「いえ…申し訳ありませんでした。」

一番大切なことを確認もしないで

「あの人誰にでもやさしくするから…」

心を舞い上がらせて

「いえ…私が悪いんです。」

あんなにいい人が一人なわけないじゃない。

スタンドへと上がる階段の下。

ここは死角になるから誰の目にも触れない場所。

「わかってくれたらそれでいいの。ゴメンナサイね。」

「すみませんでした。」

私は目の前にいる背が高くてロングの髪を綺麗に巻いている美女に頭を下げていた。



ジャグの麦茶が足りないと直也さんに言われて、いつものように管理室の横の水汲み場で氷を足して麦茶を注ぎ入れていると

『あなたが高円寺さん?』

見知らぬ女性が私の肩を叩いた。

『私のことわかる?』

綺麗な人だと思うのと同時に

『すみません…』

胸の奥がざわついた。

その胸のざわつきが間違いでないことをすぐに私は確信する。

彼女は私の目をじっと見続けクスリと笑うと

『京介に手を出さないでくれるかな。』

私を現実に引き戻した。

そう…京介さんには大切な人がいたんだ。


背を向けスタンドへと続く階段を登っていく彼女を無意識に眺めていると

…ズキン

「痛ッ…」

これはきっと神様からのバツだ。

“大切な後輩の彼女のともだち”

いつからこのわかりきった図式を勝手に解釈してしまったのだろう。

こんなチンチクリンの色気も何もない私に

「バカだ…」

このチーム一番のモテ男さんが振り向いてくれるはずないじゃない。

…大バカ者だ。

「直也さん…ジャグです。」

「おっ!璃子ちゃんサンキュー!」

私はジャクを直也さんに渡すとグラウンドに一礼して

駅へと続く門を抜ける。

良かった…今日はショルダーバックで

この間もらったメガホンも私の気持ちもスタンドに全部置いて

振り向くこともせず真っ直ぐに道を進む。

球場に沿うように咲き乱れる満開の桜は私の涙と同じく舞い落ちて

…サクラチル

いや、私の恋は咲いてもいなかったんだ。

目を瞑ると浮かぶのはあの優しい私の大好きな笑顔。

「好きになっちゃったのにな。」

涙を拭う手にはあのマメだらけの手のぬくもりが今でも宿っていた。

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