赤い糸
第7章 サクラ
「あのね…ウフフ。」
朝、職員玄関で会ったときからずっとニヤケ顔のこの娘。
「あーもう焦れったい!」
「キャーやめて~!」
その理由は聞かなくてもだいたい検討は付く。
「いい加減に白状しなさい!」
「美紀痛いって~」
こりゃ随分と進展したんだなと、昼休みに食堂に呼び出し窓際のカウンター席に座り尋問を開始する。
「白状しろ!」
二人きりで夕陽を見たあの日を境に距離は近づき
今じゃ記憶を無くす前と変わらないほど笑顔は柔らかくなっている。
「あのね…」
だからこそ、ハートマークが語尾に付く璃子の言葉に期待は高まるんだけど
「手を繋いだの。」
アナタたち…
「手だけ?」
「うん…繋いじゃった!」
もうとっくに成人してますよね?
「前にもチョットそういう感じになったことがあったんだけど…」
璃子は覚えてないかもしれないけど二人は恋人同士だったんだよ?
「今回はね、車に乗っても繋いだままで…。」
その先があるだろ…
「そんで?」
キスとか…
「ん?」
キスとか…
「バイバイの…キスとか。」
「え?キ…キス?!」
おいおい…まさかだよ…
「アンタさぁ…もしかして手を繋いだだけでそんなに浮かれてるの?」
「ダメ?」
「ダメ?じゃないでしょ?ダメじゃ!」
私は京介さんに心から同情するよ。
「で!でもね!」
「なによ。」
でました!恋愛偏差値の低い子犬がキャンキャン吠え始めた。
「明日の決勝戦で勝ったら…」
「勝ったら?」
子犬さんよ。今度はなんだい?
期待もせずに私は大きな口を開けてカツ丼を頬張ると
「京介さん家にカレー作りに行くんだぁ。」
デカい爆弾を落としやがった。
「ぐぅっ!」
「大丈夫っ?!」
…勘弁してよ
「ゴホッゴボッ。」
「水、水…」
「ぷはぁ。」
この子犬は男の人の家に行くってことがどんなことだかも忘れてしまったのだろうか?
「アンタさぁ…」
「ん?」
「まさか…カレー作りに行くだけじゃないよね?」
「一応サラダも作ろうかなとは思ってるけど…」
いっその事、カレーと一緒に食われてしまえばいい。
「え?デザートも作らなきゃダメ?」
そうだ。食われてしまえば記憶も蘇るかもしれない。
「作れ作れ…。そんで美味しく食ってもらえ。」
ホント…京介さんに同情するよ。