赤い糸
第8章 タイミング
その事実を知ったのは
「それ…どういう意味ですか?」
事務所の子がナースステーションまで書類を持ってきたときだった。
「ですから…高円寺さんがいなくなると寂しくなりますねって話ですよ。」
…いなくなる?
「あの…璃子辞めるんですか?」
「ううん、転勤っていうのかな。」
…転勤?
「あれ?聞いてない?川野先生のご指名でアメリカに。」
彼女は友達なのにどうして知らないのと、首を傾げながらその事を話してくれた。
知らないも何も…その話は璃子が記憶喪失となって流れた話だとばかり思っていた。
…やられた。
川野先生のカードはこれだったんだ。
「あの…もうそれって決定なんですか?」
「たぶんね、高円寺さんが事務長と話してたから。」
自分一人じゃ何も決められない璃子が決断したアメリカ行き。
よく考えればこの間の決勝戦で具合が悪いと璃子が帰ってから同じ病院内にいるのに会話をしてもいなければ顔も会わせていなかった。
…どうして私に相談をしてくれなかったんだろう
それに この事実を京介さんは知っているのだろうか。
私はパソコンに向かいながら頭を悩ませる。
「美紀!315号室の点滴交換行ってきて。」
「はぃ!」
のんびり考えてる暇もない…
どうしよう…
時計の針はもうすぐお昼になろうとしていた。
*
璃子を捕まえるのが先か京介さんに連絡を取るのが先か悩んだ私は
「もしもし…京介さん?」
きっと私と同じく何も知らないであろう京介さんに連絡をとった。
『どうしたの?こんな時間に。』
「あの…璃子が…」
穏やかな口調で私と話始めた京介さんだったけど
『…そか。』
話の内容を聞くごとに声色を変え溜め息を漏らした。
「すいません…こんなに私近くにいるのに…」
『美紀ちゃんのせいじゃないよ。教えたくれてありがとね。』
きっと二人は記憶が無くたってうまくいくと信じてた。
「京介さん…」
『大丈夫。俺から璃子に直接聞いてみるから。』
でも、今はその考えが浅はかだったと自分を責める。
『言ったでしょ?俺はもう我慢しないって。』
何にも保証なんてないのに
「私に出来ることがあったら言ってください。」
愛した人のことをこれだけ真っ直ぐに想える京介さんを
ねぇ璃子?手放していいの?
私は神様に祈るように空を見上げた。