赤い糸
第10章 壁
「アハハッ!マジかよ!」
「ガキじゃねぇんだから。」
なんで毎回毎回この二人の話しは
「しょうがねぇじゃん…」
このオチになるんだろう。
テーブルに肘をついて頬を膨らます京介さんを見ながら俺たちは笑い出す。
「いいじゃないですか。とりあえず元サヤってことで。」
「そうだな…記憶のことは置いといて、璃子ちゃんと想いが通じたのは確かだもんな。」
無事に二人は修復したと璃子ちゃんから報告を受けた美紀からの話を
「このお喋りが!」
居酒屋で垂れ流すといういつもの図式。
「痛いですって!」
でも、記憶喪失という壁は二人をそんな簡単には戻してくれないようで
「まさか キスも出来ねぇとはな。」
「元々ガード固いのにな。こりゃ百戦錬磨の京介も大変だわな。」
「…うるせぇよ。」
美紀の話によると…
二人が思いを確かめあったあの日の帰り道、璃子ちゃんにキスをしようとしたら見事に避けられたのだそう。
「それはしょうがねぇだろ。自分の気持ちも曖昧で記憶もないし…。」
「でも、璃子ちゃんのお母さんには挨拶できたんだろ?」
「あぁ。涙流して頭下げてくれた。」
璃子ちゃんが地球上にいるたった一人の男の存在を忘れたことによって巻き起こったこの事件。
「お母さんも辛かっただろうな。」
その事件もなんとか一歩歩み出せそうなそんな気配。
「でも、これからじゃないですか。」
「キスだセックスだと言ってる場合じゃねぇぞ。」
そうなんだ、アメリカ行きの件がまだ有耶無耶のままなのだ。
「璃子ちゃんはあの医者にちゃんと言ったんだろ?」
後からわかったことだけど、復縁した日の日中に返事をしてしまっていたらしい。
「まぁな。」
そして、運悪くというか期限も近づいてきていたのでその日のうちにアメリカの研修先にメールで返事をしてしまっていたようで
「俺もあの医者に頭下げにいった方がいいかな。」
璃子ちゃんはなんとかしようと奮闘しているらしい。
やっと想いが繋がったのにまた一難…
「そうだな…京介、ちゃんと璃子ちゃんのフォローしろよ。」
「そうだぞ。最後まで気を抜くなよ。」
記憶喪失という壁はまだ京介さん立ち退き前にどっしりとそびえ立つ。
「うるせぇ佑樹!」
でもきっと二人なり大丈夫。
俺たち、その壁を二人で乗り越えられると信じてるから。