赤い糸
第11章 タイムリミット
「ストライク!バッターアウト!!」
「ありゃ~」
いつもなら、どんな球だって外野の奥まで軽々飛ばすくせに
「これで二打席連続空振り三振…」
「こりゃ、相当堪えてんな。」
チーム一番の打率を誇る京介さんのバットが空を切ればスコアにはお行儀よく0が並ぶだけ。
「や~めた。」
京介さんは力無くバッドを佑樹さんに渡すと指定席の一番奥のベンチにドカンと座り
「おい、京介…」
「佑樹、少し放っておいてやれ。」
帽子のツバでイケメンの顔を隠した。
“大丈夫”なんてサラリと言っていたけどそんな筈はない。
苦しみの果てにやっと最愛の人の心を掴んだのに 何週間後にはまた手放さなきゃいけないかもしれないのだ。
それもまだ記憶の扉が開いていない不安定な状態で…
腰を痛めてベンチを温めている俺は麦茶を片手に京介さんの横に何気なく座る。
「どうぞ。」
「ん。」
そのお茶を京介さんは一口で飲み終えると視線をあげること無く
「昨日まで記憶なんて蘇らなくてもいいと思ってたんだけど…」
小さな声で
「やっぱり必要なんだよな。」
胸の内を溢し始めた。
「昨日アイツ、もう思い出したんじゃねえかってぐらい俺の世話してくれてたのに…感情だけが思い出せないって言いやがった。」
…感情
それは誰もが見えない不確かなもの。
些細なすれ違いで俺だって美紀と揉めることだってある。
でも、お互いの感情を理解し合えてるからまた同じ道を歩んでいける。
「ゴールデンウィークとか聞いてねぇし…」
でも璃子ちゃんは肝心な心が見えていない状態で
「やっぱ俺の一方通行だったのかも。」
渡米してしまうかもしれないのだ。
「京介さん、出来ることからやってみましょうよ。もう形振りなんて構っていられないでしょ。」
俺たちが出来ることは
「璃子ちゃんと話してこいよ。」
「そうだぞ、限られた時間を大切に使え。」
この小さくなってしまった大きな背中を目一杯押してやることぐらいしかない。
「ほら、行けって!」
コップを握っていた手を長谷川さんがグッと引き上げて
「しっかりしてください!キャプテン!」
俺はその背中を両手でグッと押す。
「勝負は9回ツーアウトからだって昔オレに言ったよな?」
一分一秒が勝負なのかもしれない。
負けんな。京介さん!