赤い糸
第11章 タイムリミット
私はこの恋で自分は強い人間なんだと知った。
「…子。」
昨日あんなにも無惨に散ったのに
「…子?」
ノコノコと病院に来ていつもと同じように仕事を
「璃子!」
「ハイ!」
「なにボーッとしてんだよ!」
…こなしてないか。
明け方まで涙を止めることができなくて体がまだフワフワとしてる。
「…つうか、その酷い顔でよく病院に来れたな。」
多少はダメージを食らっているらしい。
「なんだよ、もしかして振られたとか?」
「…はぃ。」
「は?ウソだろ。」
家に居たらいつまでも泣いてしまいそうで無理して出勤してきたんだ。
「あの野球の兄ちゃんに?」
これからの私は仕事に生きるんだ。
「そういうことなので、これで心置きなくアメリカに行けます。よろしくお願いします。」
「お、おぅ。」
「では、今日のスケジュールを確認しますね。この後10時から一件ムンテラが入ってます。それが終わったら…」
泣いてなんかいられない。
もう終わったんだ…
いや、何も始まってなんていなかったんだ。
*
「…午後はオペだけですね。あ、それとですね…伊藤先生の件ですが。」
まったく あの野球バカは何を考えてるんだ。
ヒョイとこっちに渡されて 仲良く肩を並べて旅立てと言われても
「無理だ。」
「そんなこと言われても…伊藤先生は先週もお断りしてるので今日診ていただかないとリミットみたいで…」
流石に素直には喜べない。
でも、どうして手放したんだ?
記憶を無くした彼女の心の糸をあんなに時間をかけて結び直し、もう一度惚れさせたというのに
「じゃあ、伊藤先生には時間は約束出来ないって伝えてくれ。」
「はぃ。それと…」
「何だ?」
宣戦布告までしたのに
「あの…色々とすみませんでした。もうグズグズ言ったりしませんから。」
アイツは何を考えてるんだ。
「それはいいよ。とにかくそうと決まれば今日から荷物を纏めたいと思ってる。なんせ時間がないからね。」
「わかりました。残業覚悟で望みます!」
こんな顔させて…
「頼んだぞ。」
「任せてください!」
まぁいいか、俺からすれば相手のエラーで点を積み重ねたって感じ。
勝利は目前、タイムリミットはすぐそこ
「ブス。」
「…。」
「ウソ、可愛いよ。」
いや、もう勝ったも同然なのかな。